第14話
ここはウエス国の森の中。
偶然、温泉を掘り当てたフィーネたちは、露天風呂を満喫していた。
「まさか、この世界で大きな露天風呂に入れるなんて思ってなかったわ」
フィーネが手拭いを頭に載せてくつろいでいる。
いつの間にか、洗い場やシャワーまで完備されて、完全に日本の温泉のようになっている。
「楽しいー!ブクブク」
リリィは、湯船の中を泳いでいる。
「温かくて眠くなるキー」
「温かいキキー」
モックとドンキーは湯船に足だけ入れて温まっている。
「こんにちはー。誰かいますかー! 」
来客が来たようだ。
「はーい。ちょっと待ってて」
フィーネが返事をして、さっと服を着て出ていく。
そこに居たのはオルガだった。
「オルガ。今日は何の用? 」
「母さんの腰が良くなくて、また痛み止めを貰いに来たんです」
「わかったわ。今、薬を取ってくる」
フィーネは、そういうと、倉庫から薬を取ってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。ところで、これは何ですか? 」
オルガの視線の先には露天風呂があった。
「ああ、あれは温泉で作ったお風呂よ。オルガも入っていったら? 」
「風呂ですか。じゃあ、お言葉に甘えて入っていきます」
「じゃあ、その小屋で服を脱いで入ってね。一応、男湯と女湯に分かれてるから」
「わかりました! 」
この世界には、温泉はあるが大人数が一緒に入るような大衆浴場は無い。
オルガにとっては、初めての体験だった。
「これは、気持ちいいですね」
壁を隔てた男湯からオルガの声が聞こえる。
「そうでしょ?そうだ、一度お母さんを連れてきたらいいわ」
「母さんも喜ぶと思います。今度連れてきますね」
オルガも露天風呂が気に入ったようだ。
すっかり温まって、喜んで町に帰っていった。
すると、今度はゴブローがやってきた。
「フィーネ、紅茶の葉をもってきたぞ」
ゴブリン村の周囲では良質な茶葉が採れる。それを定期的にゴブローが持ってきていた。
「ゴブロー、ありがとう。折角だから、お風呂に入って行って」
「風呂ってなんだ? 」
ゴブリンは風呂に入る習慣がない。体は川で洗うのが普通だ。
「お湯を貯めた大きな水たまりに浸かって体を温めるのよ。気持ちいいわよ」
「フィーネがそういうなら、入っていくか」
そういうと、ゴブローは露天風呂に入った。
「これは、気持ちいいもんだな!疲れが無くなるみたいだ」
男湯からゴブローの声が聞こえる。
ゴブローも露天風呂が気に入ったようだ。喜んで帰っていった。
「待てー! 」
「待たないキー! 」
「待てーキキ! 」
リリィとモック、ドンキーは湯船の中で追いかけっこを始めた。
「滑って転ばないでね! 」
フィーネがそう言った瞬間、
ツルッ!
リリィが足を滑らせた。そして、そのまま滑っていく。
「キャー!ブクブクブク」
ドーン!
小屋にぶつかっって破壊してしまった。
「言わんこっちゃない……」
フィーネが呆れていった。
「ああ、面倒くさい。時よ戻れ、リバース! 」
バラバラになった小屋が、元に戻っていく。
「ごめんなさい……」
リリィが申し訳なさそうな顔をして謝る。
「お風呂では、追いかけっこ禁止よ」
フィーネが怒り気味にいう、
「わかった……」
「わかったキー……」
「キキ……」
3人とも反省しているようだ。
露天風呂から上がって、午後のティータイムを楽しんでいるときだった。
リリィが思いついたように言った。
「ねえ、フィーネ!足湯を作らない? 」
「足湯? 」
「足だけをつける温泉だな」
イブが補足する。
「足湯なら、椅子に座ったままでの温まるよ」
リリィが目を輝かせる。
「なるほど、それはいいわね」
フィーネは早速、魔法で足湯を作り始めた。
木の板で長方形の箱を作って、そこに木の皮で作ったホースで温泉を引いてくる。
あっという間に完成した。
「そう!これが足湯! 」
リリィの想像通りの出来だったようだ。
早速、靴を脱いで足を入れてみる。
「温かい。足から体全体が温まるみたい」
フィーネは足湯が気に入ったようだ。
「これは、最高だな」
イブも気持ちよさそうだ。
「紅茶に足湯。最高ののんびりね」
フィーネたちは夕方まで足湯を堪能したのだった。
その夜、フィーネたちが寝静まったころ。
森の中を素早く移動する複数の人影があった。
「女の子を探せ。生け捕りにするんだ」
「特別な子だ。丁重に扱うんだぞ」
「邪魔する者は殺して構わない」
人影は散り散りに分かれていった。
イブは布団の中で、妙な気配を感じていた。
「何か、厄介事が起きそうだな……」
そういうと目を閉じた。




