第10話
ここはウエス国の森の中。
はるか昔に滅びた町の遺跡が残る場所。
巨大なクモとエルフのフィーネが対峙していた。
「ねえ、みんな捕まってるみたい。どうしよう? 」
リリィが怯えた声で言う。
ゴブロー、イブ、モック、そして行方不明だったドリアードの子供も捕まっているようだった。
大きな繭のような白い球体が4つ、巨大グモの近くにある。
「ああもう、面倒くさいなあ」
フィーネは大きくため息をついた。
「風よ吹け、ウインド」
フィーネが呪文を唱えると、風の刃が繭に繋がった糸を切り裂いていく。
ゴロンゴロンと繭が4つ、フィーネたちのところまで転がってきた。
「みんな生きてるみたい! 」
リリィが繭に触れて確認する。
「じゃあ、これでお終いね。炎よ出でよ、インフェルノ」
炎の矢が巨大グモに直撃する。
ギヤーーーー!!
巨大グモが、断末魔の声を上げ、燃え上がった。
バタバタと無数の足を動かしていたが、やがて動かなくなった。
リリィとフィーネは手分けをして繭を破って開ける。
「助かったキー! 」
「ありがとう。死ぬかと思ったよ」
「女神が、こんなざまとは情けない」
モック、ゴブロー、イブが無事に出てきた。
最後の一つの繭を開けると、中からモックよりも一回り小さなドリアードの子供が出てきた。かなり弱っているようだ。
「急いで、仲間のドリアードの所に連れて行きましょう」
フィーネが言うと、ゴブローが立ち上がって言った。
「俺が案内する」
ドリアードのいる場所まで、フィーネたちは急いだ。
日没の時間が近い。ゴブリンの村が襲われるタイムリミットまで、あとわずかだ。
「ここだ! 」
ゴブローが叫ぶ。そこは開けていて何もない場所だった。
「何にもないじゃない」
リリィが言う。
フィーネは両腕に抱いていたドリアードの子供をそっと地面に置いた。
その時、
ゴゴゴゴ
地響きのような音が聞こえた。
そして、
ドーン!ドーン!
周囲の木が動き出す。幹に顔が現れ、土から引き抜いた根が両足になった。
「ドリアード!居なくなった子供を取り返してきた!巨大な蜘蛛に捕まっていたんだ! 」
ゴブローが叫ぶと、
「ゴブリンよ。わし達は誤解していたようだな。子供を助けてくれてありがとう」
ドリアードが野太い声で話す。どうやら、誤解は解けたようだ。
モックがドリアードの子供を仲間の元に連れていく。
「これで安心だキー」
ドリアードの子供は、フィーネたちの方を振り向くと手を振った。
「誤解が解けて良かったね」
リリィがゴブローに言う。
「そうだな。これで村は救われた」
ドリアードたちは、森の中に消えていった。
フィーネたちは、ゴブリンの村に戻り、事の顛末を村長に報告した。
「エルフ殿、本当にありがとう」
「もう、面倒はごめんよ」
フィーネは、村長から薬草や紅茶の葉を報酬として受け取った。
「フィーネ!ありがとう」
ゴブローに見送られて、フィーネたちは、家に戻ったのだった。
「すごい冒険だったね!私、もっと冒険したい! 」
リリィは、まだ冒険したりないようだ。
「もう、こんなのはコリゴリよ」
フィーネは、もうウンザリという顔で言う。
「ぼくは女神なのに、本当に情けない。もう油断はしないぞ」
イブは、さっきから反省しきりだ。
「キー!モックは、あの子と友達になったキー! 」
モックはいつの間にか、ドリアードの子供と友達になったようだ。
家にたどり着くと、フィーネはロッキングチェアに座って、紅茶を淹れた。
「あー、本当に疲れた。紅茶が体に染みるわ」
「なんだか眠くなってきちゃった」
さすがのリリィも疲れてしまったようだ。座ったとたんにウトウトとうたた寝を始めた。膝の上ではモックが寝息を立てている。
「それにしても、あの巨大グモ……気になるな」
イブは、何か引っかかることがあるようだった。
その夜、
フィーネたちは、いつもより豪華な食事を楽しんだ。
「モック、あのドリアードたちは知り合いじゃないの? 」
フィーネが気になっていたことを尋ねた。
「モックは、別のところに住んでいたキー。だから、あの人たちは知らないキー」
「そうなんだ。モックは寂しくないの? 」
「フィーネとリリィがいるから平気だキー」
モックはフィーネとリリィの手を握って言った。
「私たちは家族だもんね。モック」
リリィが言う。
「そうだキー。モックたちは家族だキー」
モックの言葉に、フィーネはつぶやいた。
「家族、か……」
食事のあと、
ロッキングチェアに座って、紅茶を飲みながら、フィーネは考え事をしていた。
「里のみんなが生きていたら、私はどんな人生を送ってたんだろう?普通に結婚して、子供がいたのかな……」
夜空の星が滲んで見える。フィーネの頬を涙がつたっていった。
「フィーネ、泣いてるの? 」
リリィが心配そうにのぞき込む。
「ううん、大丈夫。私にはリリィやモックがいるから」
「フィーネ、変なの」
フィーネは、こんなのんびりもありかな?と思うのだった。




