どうして私だけ彼女が嫌いなのだろう
文章力アップのため、定期的に短編を書いていこうと思います。
読んでくださったら、是非bm、評価してください。
最初は小さな違和感だった。
たしかに彼女の容姿は可愛らしいと思う。
だが、所詮はそれだけだった。
勉強の成績が良い?
勉強が得意な生徒に教えてもらっているところを見たことがある。
実技の成績が良い?
周りにはボディーガードのように男達が集まっており、彼女を守っていた。
多くの男達は彼女に好意を抱き、その関心を抱こうとしていた。
それに対し、女性達──特に婚約者たちは怒るべきはずだった。
だが、そんな彼女たちも可愛らしいと褒め称えていた。
私以外の全員が・・・・・・
公爵家の令嬢である私は幼い頃から厳しい教育を受けてきた。
とある欠陥があるため、馬鹿にされないようにそれ以外の部分で補ってきた。
【貴族令嬢の鑑】とまで呼ばれるようになった。
その結果、王太子殿下の婚約者になれた。
これからも努力は必要になってくるだろうが、貴族令嬢としての夢が叶ったと思っていた。
だが、学院に入学してから──いや、とある伯爵令嬢に出会ってから、私を取り巻く環境が変わった。
周囲にいた人たち全員がとりつかれたように彼女の魅力を語り始めた。
その光景に私は言い知れぬ恐怖を感じた。
可愛らしい彼女に男性が好意を示すのはまだわかる。
だが、同じ女性なら嫌悪感を示すはずだ。
それなのに、誰も彼女を悪くは言わない。
唯一、私は彼女に注意した。
「婚約者のいる男性に無闇矢鱈に近づくのは止めた方が良い」
ごく当たり前の注意だっただろう。
だが、彼女は公衆の面前で泣き出した。
周囲からの視線が痛いほど突き刺さった。
それから私は孤独になった。
王太子の婚約者としてちやほやされていた状況から一転、まるで学院全体から敵のような扱いを受けた。
別に以前の状況に戻りたいわけではないが、だからといってこんな扱いを受けるのは癪だった。
私は変わらず彼女に注意をした。
だが、それは学院の立場をどんどん狭め、私自身の首を絞めることに他ならなかった。
そんな状況が続き、卒業のシーズンが来た。
私自身はまだ2年ほど通わないといけないが、王太子が卒業する。
婚約者として、彼の門出を祝わないといけない。
そう思って、私は卒業パーティーに参加した。
だが、そこに待ち受けていたのは予想外の事態だった。
「お前とは婚約破棄だ」
婚約者からとんでもないことを告げられた。
そんな彼の傍らには伯爵令嬢が寄り添っていた。
周囲から敵意の視線を浴びせられる。
この場に私の味方はいなかった。
「お前がこの一年、虐めをしていたことはわかっている。この場にいる全員が証人だ」
婚約者が軽蔑したような視線を向ける。
政略結婚の意味合いが強かったが、彼も好意を抱いてくれていたはずだった。
それが今では欠片もなかった。
一体、どうしてだろうか?
(クスッ)
「っ⁉」
伯爵令嬢が私を見て、蔑むように笑った。
彼女の真意はわからない。
だが、この状況での反応は私を陥れることが目的だったのだろう。
どうにかして反論したかった。
しかし、この一年で精神的に消耗した私にはそんな余力が残されていなかった。
このまま婚約破棄されるのをただただ受け入れるしかない──そう思っていた。
「では、彼女は俺がもらおう」
「えっ⁉」
だが、そんな状況は一言でひっくり返された。
驚いて声のした方を向くと、そこには一人の男性がいた。
彼は隣国の王子だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
1ヶ月後、私は隣国の王城で生活をしていた。
そこでは王太子の婚約者として過ごしていたときより数段上の豪華な暮らしだった。
国家としての規模が違うからだろう。
そんな国の王子と婚約したのだから、こんな対応をしてくれているのだろう。
「どうして私の味方をしてくれたんですか?」
「ん?」
あるとき、私は王子に質問をした。
意図がわからなかったのか、彼は首を傾げた。
「全員が彼女のことを好いていました。その結果、私には味方がいなかった」
彼も学院で過ごしていた。
当然、彼女に好意をもっていたはずだ。
そう思ったが、彼は首を横に振った。
「あんなあからさまに媚びを売る女は嫌いだよ」
「えっ⁉」
彼の言葉に私は驚愕する。
まさか男性から彼女への嫌悪を聞くとは思わなかった。
驚く私に彼は説明をする。
「あの女は【魅了】を使っていた。周囲の人間はその影響を受け、あの女に好意を抱いていたんだよ」
【魅了】は魔法の一種である。
使うことで周囲を陶酔させ、自身に好意を向けさせる。
まさかそんなものを使っているとは思ってもみなかった。
「では、どうして私やあなたは彼女に嫌悪していたのですか?」
周囲が魅了されていたのなら、私も同様に魅了されていたはずだ。
それなのに私は嫌悪していた。
どういうことなのだろうか?
「おそらく、君に魔力がないからだろう」
「はい?」
予想外の答えに呆けた声を漏らす。
魔力が無い──つまり、私は魔法を使えない人間である。
それが私の欠陥である。
「【魅了】は魔法である限り、魔力を使って作用を及ぼす。だからこそ、魔力を持つ者達はその支配下に置かれることになった」
「魔力が無い私だからこそ、そうならなかった?」
説明を聞き、状況は理解できた。
しかし、気になることがある。
「ですが、あなたには魔力があるのでは?」
私は思わず質問してしまう。
この世界の生物のほとんどは魔力を持っている。
私のようなイレギュラーはごく僅かで、持っていない方がおかしいのだ。
彼が魔力を持っていないという話は聞いたことがない。
いや、魔法を使っている姿を見たことがあるので、絶対に魔力があるはずだ。
それなのに、どうして【魅了】の影響を受けていないのだろうか?
「【魅了】の影響を受けない為にとある感情が大事になってくるんだ」
「感情、ですか?」
私は首を傾げる。
まったく聞いたことがなかった。
「まあ、あの女の【魅了】はかなり強力なものだから、並大抵の奴なら支配下におかれるだろう」
「一体、どんな感情ですか?」
気になった私はさらに問いかける。
なぜか彼は気まずそうにそっぽを向き、頬をかく。
「愛情だよ」
「はい?」
「だから、愛情だよ。俺は君のことを愛していたから、魅了されなかったんだよ」
「っ⁉」
はっきりと真正面から気持ちを伝えられ、私は顔が熱くなった。
今まで好意を伝えられたことはあった。
だが、こんなにも気持ちが伝わったのは初めてだった。
ほとんど全ての人たちが魅了される中、私への愛情を貫いてくれたのだ。
これほど嬉しいことはない。
「あ、ありがとうございます」
「・・・・・・おう」
その場はなんとも言えない空気になってしまった。
お互いが顔を合わせられず、沈黙が場を支配していた。
その状況を確認していた使用人が主人に伝え、私たちが個々に注意されたのは別の話だ。
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