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2-2

本日2個目の投稿です。

♢♢♢♢


 俺の、人生で最初の記憶。それは、何らかの事情があった俺と母がスコット家に転がり込み、助けてもらった場面から始まる。


 俺達を助けてくれたスコット夫妻は、それはそれはお人好しで情に厚く、泣き虫な、似た者夫婦だった。

 ただし、当時のスコット夫妻はまだ平民で、スコットという姓はなかった。


 夫のルドルフさんは、この国によくあるレンガのような茶色い髪と瞳をしていて、立派に蓄えた口髭も同じ色だった。彼は非常に絵が得意で、その絵は芸術好きの貴族に大変人気だった。


 妻のミーシャさんも、この国によくあるアーモンドのような茶色い髪とヘーゼルナッツのような色の瞳をしていて、ピアノが非常に得意で作曲もできて、その曲や演奏はやはり芸術好きの貴族に大変人気だった。


 そんな二人の家庭は、平民にしては大層裕福だった。

 ミーシャさんのご実家が大きな商家を営んでいるということもあり、二人は芸術作品でかなり稼いでいた。


 そんな訳で、居候が二人増えたところで苦にならなかったらしい。大変ありがたいことに、二人は俺と母の面倒をずっと見続けてくれた。


 スコット夫妻には、俺と同い年の息子がいた。名前はピーター。髪の色も瞳の色もミーシャさんそっくりで、美術的なことが得意なのはルドルフさんにそっくりだった。

 ピーターはすごく臆病で、人見知りが激しく、引っ込み思案な子だった。そして、よく泣いた。だけどとても優しい子で、俺の精神が不安定な時、何をするでも訊くでもなく、ただ一緒にいてくれた。


 ピーターの下には、当時三歳の妹、ハンナがいて、三人でよく一緒に遊んだ。


 それから、なぜか記憶にないが、俺は母ともたくさん喋っていたらしい。記憶にないから、後からスコット家の人々に聞いたことではあるが、俺達は非常に仲睦まじい親子だったらしい。

 確かに、俺の両耳についているピアスの由来なんかは夫妻に教わった記憶がないので、きっと母から聞いた知識なのだろう。


 セインス国出身の母は、同国に多い聖属性魔法の使い手で、俺が記憶を失ったあの日、大怪我をした俺を必死に治癒魔法で治したのだそうだ。しかし、彼女の魔法は自身には効かないらしい。魔力も尽き、体もボロボロだった彼女は、回復することなく一年後に亡くなった。……そう聞いている。


 母が亡くなってからも、夫妻は俺を追い出すことはなく、むしろ我が子の一人のように育ててくれた。


 教育も、ピーターと全く同じように受けさせてくれたし、ピーターやハンナが何か買ってもらう時には、俺にも絶対に同じような物を買い与えてくれた。


 そうして長い年月が過ぎ、今から数ヶ月前、だいたい去年の秋頃に、ルドルフさんは素晴らしい絵画による業績を讃えられ、男爵を叙勲し、スコット姓を手に入れた。


 それからは大変だった。貴族として恥ずかしくないよう、一家全員、家庭教師をつけた。貴族として最低限の立ち居振る舞いを覚えるためだ。


 特に、ピーターに勉強させるのは大変だった。そもそも家庭教師にも人見知りをするため、俺が常に一緒に授業を受けないと、逃げ出すか泣き出すかで勉強どころじゃなくなるのだ。


 ただ、俺はその頃にはピーターの従者になることを決めていた。


 スコット夫妻からは、叙勲した際に正式に養子縁組を組まないかと提案されたが、丁重に断った。ここまで育ててもらった家族に、従者として仕えることで恩返しをしようと思ったからだ。


 しかし、それをピーターに話すと、彼はひどく怒った。そして泣いた。

 曰く、

「僕は、ルークとはずっと同い年の兄弟だと思って接してきたんだ!それを急に従者だなんて!まるで君が他人になったみたいだ!怖いよ!!」

とのことである。


 そして、妹のハンナさえ、

「ルークにぃもピートにぃも、ハンナにとっては大事なお兄ちゃんなの。だから、ルークにぃが従者になるって言っても、ハンナは今まで通りルークにぃって呼ぶし、関係ないの。ただ、ピートにぃは頑固で泣き虫だから、どうせルークにぃが折れることになるの」

と言うのだ。


 困った俺は、スコット夫妻に相談した。すると、さすが夫妻。二人は子ども達の意見を全て聞き入れ、全てを叶えようと言ったのだ。


「ルーカス、君が従者になりたいと言うのなら、貴族の従者になるための家庭教師を手配しよう。だけどね、僕はピーターの言うことも無視できない。あの子は臆病だからね。この春には王立学園入学を控えているというのに、心強い兄弟が一緒にいないのは耐えられないだろう。いや、入学以前に、家庭教師の授業さえもままならない状態だ。だから、ルーカスには、ピーターと共に貴族教育も受けてほしい」


「ルーカスはとても頭のいい頑張り屋さんですもの。きっと、従者と貴族、両方の身のこなしを身につけられるわ!応援していますからね!」


 ニコニコ笑顔で二人に無茶振りをされた俺は、引き攣った笑顔でハイと答えた。


 それからの俺は頑張った。本当に頑張った。


 ピーターと共に貴族教育を受けながら、従者としての教育も受ける日々。

 しかも従者教育の実地訓練中には、スコット家の面々から

「ほどほどでいいからね〜」

と声をかけられる。

 

 俺は余計に奮起した。


 紅茶の淹れ方、お辞儀の角度、言葉遣い、いかに気配を消して歩くかの術、目の配り方、気の配り方、主人を立てる立ち居振る舞い。

 従者としてのノウハウを詰め込まれたその足で、貴族教育で真逆の授業を受ける日々。頭が大混乱だ。


 それでもどちらの授業も、ギリギリ及第点くらいには仕上げた。


 心残りなのは二つ。


 一つは、俺が王立学園入学までに魔法を使えるようにならなかったこと。


 ピーターと共に何度か練習したのだが、彼があっさりできることが、俺にはさっぱりできない。どんなに練習しようと一向に使える気配がせず、自分の魔力の属性さえも分からずじまいだ。

 しかし、時間もなかったため、家庭教師の方も「学園でゆっくり習っていけばいいでしょう」と匙を投げた。


 幸い、王立学園入学時にすでに魔法が使える生徒は約半数とのことなので、魔法が使えなくともそんなに目立たないとのこと。一応、教師からは、基本属性ではない魔力を持っているのでは?との見解を示されている。


 そして、もう一つの心残り。それは、ピーターの社交界デビューができなかったことである。


 ベアステラの貴族達は、概ね十四歳で社交界デビューする。とはいえ、プレデビューといった形で、十四、五歳の者だけを集めたこじんまりとした会で経験を積み、成人の年の十六歳になって晴れて本格的な社交界に繰り出すといった形をとるそうだ。


 王立学園の高等部生ともなると、貴族の子息、令嬢達は皆、社交界デビューを済ませており、概ね顔見知りだ。


 しかし、スコット家が叙勲してから貴族教育を始めたピーターは、マナーに自信が持てず、入学までに社交界に出られなかったのだ。

 ただでさえ人見知りするのに、せっかくの友達を作れるチャンスを逃してしまった。


 しかし、当の本人はというと、

「学園にはルークがいるから大丈夫。そもそも社交界にだって、ルークと一緒じゃないと出られなかったし」

などと情けないことを言っている。


 だから早めに社交界デビューした方がいいと言ったのに。プレデビュー期間なら、俺と連れ立って社交会に出ることもできるが、大人になったら基本は男女ペアでないと会に出席できないと習ったぞ。


 そんな不安も抱えながら、俺はベアステラ王国立学園入学の日を迎えたのだった。


 お読み頂きありがとうございます。

 ジャンル恋愛のくせに、二章はなかなか恋愛まで辿り着かないのですが、大丈夫でしょうか?

 マリアンヌ登場まで、しばしお待ち下さい。

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