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4-6 防音の魔道具

前回の最後の文章を最初に入れています。


「バレンティ夫人……やはり、ルーカスは魔力無しでしたか?」


 マイト先生の言葉に、俺の心臓がドクリと跳ねる。


 ああ、やっぱり俺に、魔力は無かったんだ。だけどそれを隠すために、生徒二人を先に帰した。俺の心情を慮って……


 俺はがくりと項垂れた。思わず噛んだ唇に血が滲み、鉄の味が口内に広がった。


「いいえ。そうではないのです。あぁ、ルーカス、そんな顔しないで。貴方の顔を曇らせてしまうなんて、天国のあの子に怒られてしまうわ」


 そう言って、困ったように眉を下げたバレンティ夫人は、俺の俯けた顔を手で優しく上向けた。夫人の一連の言動に、マイト先生が驚いているのが伝わる。


「マイト先生、この先の話は国家レベルの秘密になります。ルーカスは勿論、担任の先生にも聞いて頂きたいのだけれど、防音の魔道具なんかはお持ちじゃないかしら?」


 バレンティ夫人の問いかけに、目を丸くしていたマイト先生がはっとしたようにポケットを探る。そして、見たこともない小さな魔道具を取り出した。


「ここにございます、夫人」

「では、起動してくださる?」

「はい。……起動致しました。私達の半径1メートル以内の音は、外に漏れることはありません。リミットは七分です」

「ありがとうございます」


 気がつけば、即席の防音結界が張られていた。魔道具ってすごい。俺が状況についていけないでいると、夫人は俺の両手を握って、黒曜石の瞳でじっと見つめてきた。


「ルーカス、これから貴方の今の状態の話をするけれど、理解できなかったり、聞き取れないところがあったらすぐに教えてね。できるだけ引っかからないようにお話しするから」


 その台詞で、この話は母が関係しているのだなと気付く。俺が母の話を上手く聞き取れないから、聞き取れなかったら言い方を変えて説明してくれるようだ。

 俺は、夫人の目を見てしっかりと頷いた。


「貴方は今、生命維持以外で魔力を全く使えない状態なの。魔法を使うには、頭から魔力を使いますっていう信号を流すことで身体に魔力が流れて行くのだけれど、貴方の頭には強固な結界が張られていて、その結界が魔力を流す信号を遮断しているのよ。だから、貴方が魔法を使うには、頭に張られている結界を破らなければならないのだけれど……さっきも言った通り、かなり強固な結界なのよ」


 夫人の話は、先日バレンティ公爵家でも言われたのを思い出す。俺の頭には強力な結界魔法がかかっているというやつだ。ただ、その後に夫人が喋っていた内容は聞き取れなかったため、きっと俺の頭の結界は母が張ったものなのだろう。


「この結界は、貴方を守るための物のはずなの。だから、貴方がどうしても魔法を使わなければならない状態になった時には解けるようになっていると思う。私のお勧めは、このまま自然に解けるまで何もしないでおくこと。ただ、この結界が自然に解ける時、貴方はかなり危険に目にあっているかもしれない。そういう時に魔法の使い方を全く知らないのは危ないから、今は魔法を使えなくても、魔法学の実践授業を受けた方がいいと思うのよ」


 俺の手を握ったまま、夫人はマイト先生の方を見た。


「そういうことなのですが、マイト先生、ルーカスの担任として、魔法が使えなくとも魔法学の授業に出続けることを許可して頂けますか?」


 夫人からの質問に、マイト先生は困惑の表情を浮かべている。


「疑問点は色々ありますが、今のお話内容そのものは理解しました。しかし、魔法が使えないのに魔法学の実践授業を受けるのは、ルーカス本人が辛いのではないですか?それにその……頭の結界とやらが外れたからと言って、ルーカスの体内魔力が多いとは限りませんし……」


「いいえ。ルーカスの魔力量は確実に多いわ。だって、この国の国王と********」


 マイト先生の驚愕が伝わって来るが、夫人の言葉は聞き取れなかった。


「あの、夫人……」

「今のは聞き取れなかった?」


 俺が頷くと、夫人は困った顔をして笑った。


「もう。このくらい良いじゃない。過保護な子ね、全く。あ、先生、今のはまだ秘密のお話ですからね。他言無用でお願いしますわ」

「承知しました。ルーカス、夫人はこう言っているが、お前自身はどう思う?一人だけ魔法が使えない状態で魔法学の授業を受けられるか?かなり肩身の狭い思いをすることになるが……」


 心配してくれるマイト先生がありがたいが、正直実感が湧かなくてよく分からない。俺は首を傾げつつ、考えながら言った。


「夫人、俺の頭の結界は、自然に解けるのを待つ以外に解く方法はないんですか?」

「そうねぇ、この結界を張った人と同じか、それ以上の聖属性の魔力を持つ人なら解けるかもしれないわね。この国だったら、聖女候補のエマちゃんなら、もしかしたらできるかもしれないわ」

「だったらエマに、解けるか聞いてみます」


 俺がそう言うと、夫人はやっぱり心配そうな顔で俺を見つめてくる。


「私は、無理に解かない方がいいと思うわ……何度も言うけれど、その結界は貴方を守るためのものなのよ。その結界を解くということは、貴方になんらかの悪い影響があるということだと思うから……クラスで魔法学を学べないなら、クラスメイトが魔法学の授業を受けている間に、ルーカスだけ個別に魔法の授業を受けることはできないかしら?」


 バレンティ夫人がマイト先生に問いかけるも、先生は渋い顔をする。


「そうですね……彼がもし魔力無しなら、魔法学の授業中は私の下で魔道具の基礎を教える予定でした。だから、彼だけ別の授業を受けるというのは可能でしょうが、急なことで、教師がいません。私に魔法の教師を務めることは不可能ですので」


「そうですわね。バレンティ家で雇った教師を派遣させることも可能ですが、それをすると悪目立ちしそうですし……仮に学園側が魔法学の教師を出してくれても、学園にルーカスだけ特別扱いする理由を伝えねばなりません。そうすると、ルーカスの身分が平民のまま、彼の出自が多くの人に知られてしまうことになります。これは非常に危険な状態です。今、私がマイト先生にだけこの話をしているのは、先生は王城のどの派閥にも属さないことが分かっているからですわ」


 夫人の話に、マイト先生は眼鏡の奥の目を丸くして驚いている。


「これはそんなに危険な話なのですか?」

「ええ。彼の出自が厄介な人達に知られたら、命の危険がある程には。だから、ルーカスには魔法の勉強をしっかりとして貰いたいのよ。自分の身を守るためにも」


 夫人に真剣な顔で見つめられて、俺はよく分からないままに頷いた。マイト先生からは、深い溜息のようなものが聞こえる。


「……分かりました。では、ルーカスは魔法が使えなくとも、このまま魔法学の授業を受けるということで学園側には伝えておきましょう。……ルーカス、大変だと思うが、話だけならいつでも聞いてやるからな」


「ありがとうございます」


 マイト先生の言葉に、やはりよく分からないままお礼を言った。気付けば俺は、魔法も使えないのに魔法の実践がある魔法学の授業を受けることとなっていた。





♢♢♢♢


 バレンティ夫人による特別講義から一人でいつもの教室に戻ると、先に帰っていた特別講義仲間の二人を筆頭にクラスメイトに取り囲まれた。


「ルーカス!お前も魔法、使えるようになったか?どんな闇魔法だった?」


 当然使えるようになったと思っているようなキラキラした顔で、特別講義仲間の男子生徒が訊いてくる。

 俺はヘラリと笑って、


「いや、結局分からなかったんだ。今後の授業でゆっくり見つけていこうってことになった」


と、スコット家の家庭教師が言っていた言葉を借りてその場を切り抜けた。


 席に戻ると、隣の席のピーターと、遠くの席のはずのエマが心配そうに出迎えてくれる。


「ルークおかえり。あの……」

「どうだった?」


 ピーターが言い澱んだ台詞を継ぐように、エマが訊いてくる。人の耳があるところで話せる話ではなかったため目線を周囲に走らすと、俺の意図をすぐに汲んだエマが防音結界を張った。途端に、クラスメイトの声が聞こえなくなる。


「これで話せるでしょ?バレンティ夫人が特別講師だったんだって?先に帰ってきた二人が言ってた」

「ルークは特殊な魔力だったから、色々試すために残ったって聞いたよ。結局、どんな魔法を使えるか分からなかったんだね?」

「いや、どんな魔法どころか、俺は今、魔法が全く使えない状態なんだってさ」


 俺の言葉に、ピーターがショックを受けた顔をする。俺が魔力無しだったらどうしようかと悩んでいたからだろう。本当に優しい奴だ。


「ルーク……」

「いや、ピーター。そうじゃないんだ。俺は魔力が無いわけじゃなくて、どうも頭に強力な結界が張ってあるせいで、魔法を使えなくなってるらしいんだ」

「それって前、バレンティ夫人が言ってたよね?」


 ピーターも、公爵邸でのことを思い出したらしい。


 そんなピーターとは裏腹に、急に大人しくなったエマに俺は視線を向けた。


「エマ。夫人にさ、俺の頭の結界はエマなら壊せるかもしれないって聞いたんだけど、できそうか?」


 俺の質問に、エマは真顔で俺のことを見つめてきた。翠の大きな瞳が、俺の中を探るように見ている。少し居心地が悪かったが、結界が壊せるか見ているのだろうと我慢した。


 俺をじっと見つめていたエマは、数秒後ようやく目線を外したかと思うと、今度は静かに目を閉じた。


「…………壊せるわよ。確かに強力な結界だけど、私ならやれる。でも……」


 そこまで言って、エマはまた、俺の目を真っ直ぐに見た。


「やらない。その結界は、外から壊すより内側から壊す方が簡単に壊れるの。だから、ルーカスが自分で壊すのが一番いいよ」


 真剣な顔のエマの迫力に、俺は思わず唾をゴクリと飲み込んだ。すると、エマは急にニヤリと笑って茶化すように言う。


「まぁ、マリーを守りたいと思った時にでも壊せるんじゃない?ラブラブパワーでさ」


 急なからかいの言葉に、俺は一瞬虚をつかれた。

 目を丸くする俺を笑いながら、エマは続ける。


「それでももし、どうしても魔法が使いたいのに使えないって場面が来たら、その時はお手伝いしてあげるわ。でもたぶん、そんな時は来ないよ。貴方のルートに乗ってるのは、私じゃなくてマリーだから」


 意味不明な台詞を吐きながら、彼女は俺にウインクを残した。



ようやく魔力判定の一連が終わりましたね。思っていたよりもかなりボリューミーになってしまった……


今回も、お読みいただきましてありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

そして宜しければ、ブックマークと下の星マークをポチっとしてもらえると、作者大変嬉しいです!やってやってもいいぞと言う方は是非お願いします!

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