4-4 特別講義①
長かったので二つに分けたパターンです。
マイト先生に連れられて入った教室には、教卓に水の入った水槽と、大きな水差しが置かれていた。人は誰もいない。特別講師は後からやってくるのだろう。
先生に連れられてこの教室に来たのは、俺の他にあと二人。一人はあの、魔力判定の時にすごく沈んだ顔をしていた男子で、もう一人は女子だった。どちらも平民の子だ。クラスメイトなので、勿論二人とも面識はある。
先生に連れられて歩いている間、俺達は一言も喋らなかった。しかし、心の中でなんとなく仲間意識みたいなものは生まれていた。魔力少ない仲間である。
マイト先生に促されるまま、俺達は教卓に近いところに用意された席に座った。
「これから君達には、特別講師による講義を受けてもらう。何故君達だけ特別講師による講義なのかは、講師が説明して下さるから、しっかり聴くように。今回の主な講義内容は魔力管についてだが、学園長の講義も内容自体は同じだ。講義内容でクラスメイトと差ができることはないから安心しろ」
マイト先生がちょうど説明を終えたところで、タイミングよく教室の扉が開いた。そして、特別講師の方が教室に入ってくる。
(嘘だろ……)
思わず口から出そうになった言葉を飲み込んで、俺は特別講師を見た。
ヒールの音をカツンと鳴らして、高位貴族特有の優雅な所作で教室に入って来た女性は、教卓の前でお手本のようなカーテシーを行った。
「皆様ごきげんよう。本日魔法学の特別講師を務めます、バイオレット・バレンティですわ。どうぞ宜しく」
そう言って、彼女は人形のように整った美麗な顔を俺達に向けた。マリーと同じ、黒曜石のような漆黒の瞳。濃い青紫のウェーブ髪。美しい顔の表情は全く感情の読めない無表情で、冷たい印象を与える。
先日会ったばかりの彼女の母の登場に、俺は震えた。
バレンティ夫人が特別講師ということは、ここにいる生徒達が魔力の低い者達だということも分かっているだろう。ということは、俺の魔力が王族とは思えないレベルであることも知られてしまった。せっかく俺の後ろ盾になると仰って下さったのに。
俺は情けなくて、思わず唇を噛んだ。震える手を、拳を作って握り締める。真っ白な頭のままバレンティ夫人を見つめていると、彼女の漆黒の瞳とばっちり目があった。すると、彼女は何故か、俺に向かってウインクを飛ばした。
(え……?)
見間違い?なわけないよな?確実に目は合ったし、夫人は俺のことを認識して、その上であんな茶目っ気たっぷりなウインクを寄越したのだ。
なんでだ?バレンティ公爵家は、娘の彼氏の魔力の多寡は問わない家系とか?いや、それにしたって、身分差の問題がある。俺がマリーとの仲を許されているのは、第二王子だと思われているからなはずで、でもここにいるということは魔力が少ないということ。魔力が少ない王族はいないはずだから、つまり、俺は王族ではない……俺が王族でなければ、ただの平民だから、公爵令嬢のマリーとは交際できない…………
俺がぐるぐる考えていると、バレンティ夫人は教卓に立って、美しい顔に笑みを浮かべた。
「ここにいる皆様は、先程の魔力判定で、魔法を発動出来ないほど魔力が低いと判定された方々です」
微笑みを浮かべた美女は、まるでなんでもないことのように、残酷な事実を口にした。
俺達三人の間に、負の感情による嫌な空気が流れる。それは絶望、悲しみ、怒り、焦燥感などで、隣の生徒のネガティブな感情が伝染するように広がり、重なって、より空気を重いものにしていた。
そんな悲壮な生徒間の空気をものともせず、教卓の前の美女は殊更綺麗な笑みを浮かべる。そんな彼女を見て、俺は悪魔かと思った。悪魔は美しい容姿をしていると言うが、その通りだな。
「私は皆様とは逆に、魔力量がとても多いんですの。高位貴族ですから、魔力量が多いのも当然ではあるのですが……皆様のように、魔力の低い方達は可哀想。皆様だって、魔法を使ってみたかったでしょう?魔力量の多い高位貴族として、そんな可哀想な方達をお慰めするために、私は特別講師をしていますのよ」
悪魔的な笑みを浮かべたバレンティ夫人は、憎悪の目さえ浮かべ始めた生徒達をゆっくりと見回しながら、徐に続けた。
「つまり、私の膨大な魔力をあなた達に流し入れることで、皆様が魔法を使えるようにするお手伝いをするために、私はここにいますの」
バレンティ夫人の発言を一瞬理解できず、俺達三人は目を丸くした。
そんな俺達のことを、夫人は楽しそうに眺めている。そして、蠱惑的な笑みを浮かべて言うのだ。
「皆様、魔法を使えるようになりますわ」
夫人がそう言った瞬間、男子生徒が思わず立ち上がった。
「本当ですか!!?」
彼の眦に溜まった涙には、絶望の跡が見て取れる。大きく開かれた目は希望と疑心で揺れていた。
隣の女子生徒も、顔を両手で覆って泣き出してしまう。
「みんな魔法を使えるのに……私だけ使えなかったらって……本当、どうしようかと…………」
そんな二人を、バレンティ夫人は教壇から降りて慈愛の表情で見つめた。嗚咽を漏らす女子生徒の頭を撫でた夫人は、俺と目が合うと、何故か困ったように笑った。しかし、夫人の次の言葉で、その表情の意味を察する。
「大丈夫。どんなに魔力が少なくても、少しでも魔力を持っているのなら、他の魔力で魔力管を満たしてあげれば小さな魔法は使えるのよ。日常生活にはそれで充分。私が後であなた達の魔力管を満たしてあげるから、まずは魔力管とは何か、魔法を使うとはどういうことかというお勉強をしましょう。その方が、この後私があなた達に何をして、どうして魔法が使えるようになるのかが分かるはずよ」
そう、夫人は言った。
『どんなに魔力が少なくても』
『少しでも魔力を持っているのなら』
じゃあ、魔力が全く無かったら?
さすがに怖くて、俺は訊けなかった。
お読みいただきありがとうございました♪
前書きにも書いた通り、例の如く長かったので半分に分けます。そしていつもとは違って、長くて書き終わらなかったので、次の話は後日早めに投稿します。
思ったより生徒たちが落ち込んでたのと、夫人がいい性格してたのが原因です。
明日投稿できたらいいなと思ってはいますので、次回もよろしくお願いします。




