4-2 魔力判定①
魔力判定の授業です!
時系列的には、前回の「魔法学第一単元」→「第一章と第二章最後のマリアンヌとルーカスの出会い」→「第三章 公爵家でお茶会を」→今回の「魔力判定」となります。
そして一週間後の魔法学の授業。今日は前回の予告通り、魔力判定の日だ。
今日の授業はいつもの教室ではなく、魔法実技の練習に使う教室で行われる。いつもとは違う場所に集められたクラスメイト達は、どこか浮かれたような期待混じりの空気を漂わせていた。俺達のクラスには平民も多いから無理はない。
魔力判定は、ベアステラの国民ならば成人の年である十六歳の時に一度、無料で受けられる。
学校に通わない平民は、十六歳になったら教会か冒険者ギルドで魔力判定を受けることができ、その結果が戸籍に書き加えられる。魔力判定で自分の魔力属性を知ってから職探しをする者も多い。
しかし、貴族の子女は成人より前、十歳前後に有料で魔力判定を受ける場合が多い。早く自分の魔力属性を知ることで、学校が始まるよりも先に魔法の勉強を始めることができるからだ。
そして、家が貧乏で魔力判定の料金が払えない貴族の子女と、優秀なため王立学園に入学できた平民の学生は、成人より一年早い十五歳で、学園の授業中に魔力判定を受けることができる。うちのクラスにはそういう、魔力判定を初めて受ける生徒が多い。この浮かれた空気も納得というものだ。
俺はというと、少しの不安と緊張が混じった、なんとも言えない感覚で、楽しそうな笑顔のクラスメイトに混じっていた。
実を言うと、俺は魔力判定が初めてじゃない。
スコット家の家庭教師に貴族教育を習っていた際、ピーターと一緒に魔力判定をやったことがあったのだ。
家庭教師に言われるがまま、ピーターが水晶玉に手を当てると、水晶が輝いて中にキラキラした茶色い砂粒の様なものが現れた。目を輝かせたピーターが、
「ルークも」
と言って俺の手を同じ様に水晶に当てたが、水晶は透明なまま全く光らなかった。
「私は基本属性を調べる水晶玉しか持っていないので、もしかしたらルーカス君は特殊属性なのかもしれない。王立学園に入れば特殊属性の水晶でも魔力判定ができるから、気を落とさないで。特殊属性の魔力の人は、とても貴重だよ」
あまりにも俺がガッカリしていたのを気にして、先生はそんな風に言ってくれた。
でももし、俺が特殊属性の水晶に触っても何も起きなかったら、どうしたらいいのだろう?
俺のことを王族だと信じきっているクリストファー殿下からは、俺に魔力が無いなんてありえないと言われたが、何事にも例外というものはある。そもそも、本当に俺が王族かどうかさえ分らないのに。
そんなことを考えている内に、クラスメイトの魔力判定は着々と進んでいた。
魔力判定は一人ずつ、名前を呼ばれた生徒が壇上の水晶玉の前に行き、担任の先生と学園長の見守る中で行われる。魔力判定を行う生徒は、他のクラスメイト達に背を向ける状態で水晶に手を当てるため、魔力判定の結果は本人以外の生徒には基本見えない。しかし、魔力の多い者が水晶に手を当てると、水晶が強く発光するため、クラスメイトの知るところとなる。
先程のエマの魔力判定とか、すごかった。
エマが特殊属性の水晶に手を当てた途端、水晶が眩く光り輝き、眩しくて目が開けられない程だった。さすが聖女である。
逆に、ある生徒が水晶に手を当てた時、こちらからは何も分からなかったが、マイト先生が彼の肩を叩き、何かを小さく囁いていた。彼は見るからに肩を落とし、その彼を宥めるように学園長も声を掛ける。きっと彼は、魔力が非常に低い、もしくは無かったのだろう。
こちらから水晶は見えなくても、先生方や本人の反応から結果を察することはできる。
(次は俺の番かもしれない)
沈んだ表情の彼を見て、俺は思った。
緊張している俺の肩を、誰かが宥めるようにトントンと叩く。ピーターだ。顔を向けると、笑顔を返される。ありがとう、いつもと逆だな、と思ったが声には出さない。ただ、その声に出さなかった俺の声も、ピーターには聞こえているような気がした。
「僕達のクラス担任、ジム・マイト先生は、とっても有名な魔道具技師なんだって。知ってた?」
ピーターからの突然の話題に驚きつつも首を横に振ると、彼はあのね、と続きを話し始める。
「マイト先生には魔力が全然無いんだってさ。魔力が全然無いってことは、魔力を流すことで動く魔道具を起動させることもできないってことなんだけど、マイト先生は魔力が全く無い人でも起動できる魔道具を開発したすごい人なんだ。僕達のクラスには平民や下位貴族の子達が多いから、あえてマイト先生を担任にしているんだって聞いたよ。魔力が低い子や、全く無い子がいた時にサポートしやすいようにって」
ピーターの話に、俺は目を丸くした。内容に驚いた訳ではなく、社交的でないピーターがそんな情報を知っているのにびっくりしたのだ。
「知らなかった。それ、誰から聞いたんだ?」
「エマとクリストファー殿下に。王妃様のお茶会練習の時」
その答えに俺は納得する。
なるほど、先日あったバレンティ公爵家での夜会練習で、俺とマリーが二人で温室に行っていた間、二人に聞いたらしい。
「本当に僕が聞いてもいいのか分からないような話を二人が平気でするから、僕はすごく居た堪れなかったよ……」
そう言いつつも、いつもなら「僕から離れないで」と懇願するピーターが遠慮して何も言わないところに、俺とマリーの仲を応援してくれているのを感じた。
考えてみれば、王立学園入学から一月と半分くらいで、本当に驚くような出会いがあった。聖女候補のエマから始まり、俺の兄だと主張してくるクリストファー殿下、そして数日前に出会った公爵令嬢のマリー。皆とても高貴で、平民の俺なんかが話しかけるのもおこがましいような人々と知り合いになった。そんな中で、ピーターだけは昔から変わらずずっと隣にいてくれる。
本当に、ピーターは俺にとって得難い友達だなと心から思った。
「ありがとう、ピーター」
俺がピーターの存在に感謝を伝えると、彼は虚をつかれたような顔をした。
「えっ!?ど、どういたしまして……?」
何に感謝されたのか分からないという顔のピーターは、少ししてから何かピンときたようで、
「あ。べ、別に、ルークには魔力が無いだろうと思ってるとかじゃないからね?ただ、もし魔力が無くても、マイト先生がサポートしてくれるから安心してって意味で……」
と見当違いの返事をしたので、俺は
「分かってるよ」
と言ってピーターの頭を小突いた。
そんなことをしていると、ピーターの名前が呼ばれた。
「ひゃいっ!」
と情けない返事をして、ピーターが壇上に上がる。そしてつつがなく、彼の魔力判定は終わった。
ほっとした顔のピーターを笑顔で迎えると、すぐに次の生徒の名が呼ばれる。
「次。ルーカス、壇上へ」
俺は背筋を伸ばすことで不安と緊張を誤魔化して、壇上へ向かった。
お読みいただきありがとうございます!
魔力判定、次回に続きます。次回もよろしくお願いします!




