4-1 魔法学第一単元
第四章開始です!
この章はルーカス視点で進んでいきます!
入学から一月ほど経ち、学園生活に少し慣れて来た頃の魔法学の授業でのことだ。
「今日で、魔法学の第一単元は終了だ。次の授業からはより実践的な魔法を使った授業になる。ここまでの内容は基礎中の基礎だからな。今一度しっかり復習しておこう。ルーカス、魔法学においてこの世に存在する魔法属性を全て答えろ」
担任のマイト先生に、俺は名指しで指された。ここはスコット家の家庭教師にも習っていたところだった為、簡単に答えられる。
「基本属性の木、火、土、風、水の五つと、特殊属性の聖、闇で合計七つです」
俺の答えに、マイト先生は分厚いレンズの丸眼鏡をキラリと光らせて、形の良い唇の口角を上げた。銀の長髪に、長身痩躯なジム・マイト先生は、この分厚い眼鏡がトレードマークだ。エマが聞いてきたクラスの女子の噂話によると、眼鏡を外すと大層美形らしい。まぁ、俺には関係のない話だ。
「そう。基本属性の魔法は、その属性のものを自らの魔力で生み出す。木なら植物を、火なら炎を何もない所から自身の魔力だけで生み出せる。それが基本属性の魔法だ」
コツコツと靴を鳴らしながら、マイト先生は教室を歩き回る。
「では、基本属性とは異なる特殊属性の魔法とはどういうものかを……ライオネル」
「特殊属性の聖属性魔法は、聖結界を生み出すだけでなく、対象の生物に魔力を流すことによって治癒などの影響を与えることができます。また、穢れた魔力を持つ魔物を浄化できるのも特徴です」
次に名指しされたエマが、聖属性魔法の特徴をすらすらと答える。さすが聖女候補だ。
「そして、もう一つの特殊属性である闇属性とは、基本属性でも聖属性でもない全ての魔法のことを指します」
エマの完璧な説明に、マイト先生は満足そうに頷いた。
「その通り。今の魔法学では、基本属性と聖属性以外の魔法は全て闇属性の魔法とされる。ここで言う闇とは、何が出てくるか分らないブラックボックス、みたいな意味だな。数種の基本属性を合わせて使った魔法も闇属性に分類されることから、もっと細かく属性の分類はできるとされているが、それは魔法分類学という専門の学問の分野だ。ただ、次の魔法学の授業では皆の魔力の属性を調べるが、闇属性の魔法と闇属性の魔力は別物だというのは知っておいた方がいいだろう」
マイト先生はホワイトボードに大きく「闇属性」と書き、その下に「魔法」と「魔力」を書いた。
「さっきも言った通り、闇属性は基本属性でも聖属性でもない全ての魔法、魔力の総称だ。そして、基本属性の魔法とは、基本属性の魔力を使ってその属性のものを生み出す魔法のこと。つまり、ものを生み出す以外の魔法は全て闇属性の魔法ということになる。例えば、火属性の魔力を持つ人がよく使う、冷たい水を温める魔法は、元々ある水の温度を変えているだけで生み出してはいない為、闇属性の魔法ということになる」
「魔法」の文字をペンで囲うように示しながら、マイト先生は説明を続ける。
「また、水属性の魔力を持つ者の中には、水の温度を下げる魔法や、氷を生み出す魔法を使える者もいるが、それもどちらも闇属性の魔法だ。水の温度を下げるのは、水を生み出しているわけではないし、氷を生み出すのは基本属性には無いからな。それから、火と水両方の魔力を持つ者が使う、何も無いところからお湯を生み出す魔法もまた、闇属性の魔法だ。つまり、闇属性の魔法と言っても、基本属性の延長線上にあるような魔法も多いというわけだ」
先生はそこまで話すと、今度は「魔力」の字の方にペンを向けた。
「だが、闇属性の魔力は違う。もちろん、ここで使われている『闇』の意味は同じだ。何が出るか分からないという意味だな。ただ、基本属性の魔力しか持たない者が闇属性の魔法を使うことはできても、闇属性の魔力しか持たない者が基本属性の魔法を使うことはできない。闇属性の魔力を持つ者は、大体特殊な闇魔法を使えるんだ。例えば、ある者はアイテムボックスの魔法という、どんな物でも亜空間にしまって出し入れ自由にできるという魔法が使えるし、ある者は他者に自分の魔力を流すことによってその者の能力を大幅に上げるというバフの魔法が使える」
マイト先生の眼鏡がキラリとひかり、クラス中をゆっくりと見渡した。ここは大事なところだから、皆が授業についていけているかを確認しているようだ。
そこへ、エマがスッと手を挙げて発言した。
「先生、質問いいですか?」
「どうぞ」
「先程の説明だと、基本属性に属さない聖属性も闇属性の一部に分類してもいいと思うのですが、どうして聖属性は別にされているのですか?」
エマの質問に、マイト先生はふむ、と顎に手を当てた。
「確かに、聖属性も闇属性の一部でいいじゃないかと俺も思う。ただ、昔から聖属性の魔法はベアステラで使える者が少なく希少かつ、国にとって非常に有益であったことから、聖属性を例外的な属性にすることで、聖属性そのものの権威を上げようとしたのではないかな?まぁ、聖女の称号と同じようなものだよ。あくまで俺の個人的な見解だが」
魔法学も古い学問だからな、と先生は続けた。
「その辺を詳しくやろうとすると、やはり魔法分類学の話になってくる。魔法学はあくまで、魔法を実践するための基礎だから、そういうのは詳しくやらないんだ。興味があるなら、魔法分類学の授業は二年生から取れるから、そこで習ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
エマの言葉に頷き、マイト先生はもう一度教室を見回した。
「さて、もう質問はないかな?いよいよ次回の魔法学の授業では、皆の魔力判定を行う。このクラスには平民の子も多いから、自分の魔力の属性を知らない子も多いだろう。楽しみに待っていなさい。測定の流れは、各自名前を呼ばれた者から順に、魔力判定用の水晶に両手を触れること。水晶は、基本属性用と特殊属性用の二種類ある。それぞれに手を触れて、水晶の色や光り方を見た上で、今後の魔法学のクラス分けを行うからそのつもりで」
そこまで言ってから、マイト先生は一度言葉を切った。そして、真剣な声のトーンで続きを発する。
「もし……水晶が全く光らない、もしくは光り方が非常に弱い者は、今後の魔法学の授業は引き続き俺の担当となる。魔力が低くても気に病むことはないからな。同じく魔力の全く無い俺が、全力でサポートしてやる」
そう言って、マイト先生はニヤリと形容したくなるような口角の上げ方をした。そこで、ちょうど良く授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「では、今日はここまで」
授業を締めくくってから、先生はひらひらと手を振って教室を出て行った。
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マイト先生の背中を見送った後も、俺はぼんやりと教室の扉を見つめていた。考えるのは、マイト先生のあの言葉。
「魔力が全くない……か…………」
「お前には無用の心配だろう?ルーカス」
突然耳の横で声がして、俺はびっくりして椅子をガタンと揺らした。俺のすぐ横には、いつからいたのかクリストファー殿下がいて、逆に驚いたような顔を向けてくる。
「いきなり動くと驚くじゃないか」
殿下に言われ、そんな理不尽なと思いつつももちろん言えず、絞り出すように謝罪の言葉を口にした。
「すみません」
そんな俺の様子を見て、殿下は肩をすくめて苦笑する。
「謝らせたかったわけじゃないのだが……まぁいい。それより、何をそんな不安そうな顔をしているんだい?」
殿下の透き通るような水色の瞳が、俺を真っ直ぐに見つめてくる。俺は、そんな殿下から視線をそっと外して答えた。
「いえ……その、俺はスコット家で少し、魔法の勉強もさせてもらいましたが、ピーターと違って一つも魔法を発動させられなかったんです。だから、もしかしたら魔力が無い、あるいは少なすぎて魔法が使えない可能性もあるのではと……」
「それは無いだろう。君は王族だからな」
殿下の言っていることの意味が分からず、頭にハテナを浮かべていると、エマがこちらにやってきた。因みにピーターは、殿下が来た時から俺の隣の席で気配を殺している。
「なんで毎休憩時間うちのクラスにいるのよ。自分のクラスに帰ったら?……で、ルーカス。何の話してるの?」
エマの台詞は、前半は殿下に、後半は俺に向けたものだった。
エマの言葉を受けて、殿下は前半の内容を無視し、後半の俺に向けた質問にだけ答える。
「ルーカスが自分には魔力が無いのではと不安がっていたから、それはないだろうと言っていたところだ。ルーカス、そもそもベアステラの国民は総じて魔力が高く、魔法が使えないほど魔力の低い者は稀だ。まして魔力が無い者など、聖女レベルの少なさだ」
クリストファー殿下の瞳が、分かったか?と言う様に向けられ、俺は思わず頷いた。
「魔力は遺伝すると言われている。昔から高位貴族ほど高魔力の者同士の婚姻を進めてきたため、高位貴族の多くは高魔力保持者だ。勿論、それには王族も含まれる。つまり、王と聖女の息子であるお前が、魔力無しなんてことは、天地がひっくり返るレベルで起きえないことなんだよ」
殿下の言葉に、俺は目をぱちくりさせた。そうか、じゃあよっぽど運が悪く無い限り、俺は魔法を使えるのか。俺が王族だというのは未だに信じられないが、魔法を使える確約は素直に嬉しい。
「ちょっと、こんな教室のど真ん中でスキャンダラスな内容含んだ話しないでよ」
「氷の結界は張っているぞ?防音も申し分ない」
「そんなポンポン結界魔法使わないで。ピーターとか、仲間外れじゃない?」
「いや、ピーターは最初から結界内部にいれているぞ?ただ自主的に空気になろうとしているだけだな」
「そうなの!?ピーター!」
プルプルと震えるピーターが何とか頷いたのを横目で見ながら、俺は片や楽しそうに、片や嫌そうに言い合いをする二人を眺めていた。
「だからまぁ、ルーカスに魔力が無いことはないはずだが、上手く魔法を使えなかったのなら、魔力が特殊属性なのかもな。闇属性の魔力持ちだと、自分がどんな魔法を使えるのか色々試さないと分からないらしいし」
殿下は何故か楽しそうに笑いながら俺の肩を掴んだ。
「それになんたって、セインス国から来た聖女の息子だ。案外聖属性の魔力持ちだったりしてな。ま、その辺も魔力判定を受ければはっきりするさ」
殿下に笑顔で肩をバシバシ叩かれて、俺は困惑する。助けを求めるようにエマの方を見ると、エマは何やら難しい顔をして考え込んでいた。そして、俺が見ているのに気づくと、困ったように眉を下げる。
「ルーカスは……魔法、使ってみたい?」
エマの言い方になんとなく引っかかりを覚えたが、俺は素直に頷いた。
「そうだな。憧れもあったし、俺にも使えるなら使ってみたいな」
「そう……」
エマは一度、考えるように俯いてから、何か切り替えるように顔を上げて笑顔を作った。
「ルーカス、聖属性の魔法なら、私がいつでも教えてあげるからね!」
「俺の魔力が聖属性とは決まってないからな」
俺が突っ込むと、エマが呟くように
「決まってるのよ」
と言った気がした。
「え?」
と聞き返すと、彼女は
「なんでも無い」
と作り物めいた笑みを深めた。
魔法の設定回でした。
魔法学ってざっくりしてるなと思ってもらえれば。ベアステラの魔法学は実践に重きをおいていますので。
では、お読みいただきありがとうございました。
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次回もよろしくお願いします。




