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3-3 説明

ずいぶん削ったのですが、ちょっといつもより長いです。

「急な訪問、失礼致します」


 クリストファー殿下はそう言いながら、父と兄の間の一番奥の席にうながされて座った。


「この度の件についての謝罪と、説明に参りました。バレンティ公爵家の皆様、そしてマリアンヌ。この度は、私の私的な都合で婚約解消を申し出てしまい、誠に申し訳ありません。彼女には全く責のないことですので、今後の彼女と公爵家に不利益のないようにするつもりです。勿論、賠償も致します。金子以外に、何かお望みのものはありますか?」


 殿下の丁寧な物言いに、父は苦笑しながら返す。


「いえ、わざわざお越し下さってありがとうございます。娘も納得しているとのこと。そんなに大袈裟にするつもりはございません。賠償も、特に必要ありません」


 そこで一度言葉を切り、父は柔らかく微笑んだ。


「……マリアンヌとのことは確かに残念だが、私は娘だけでなく、甥のクリスにも幸せになってもらいたいと思っているよ」

「叔父上……」


 父が公用の物言いから私的な態度に変わったのを察して、クリス殿下も態度を和らげる。

 そんな中、緩んだ空気を引き締めるように、兄の硬い声が響いた。


「しかし殿下、婚約解消後すぐにマリアンヌに男を紹介したそうだが……さすがに配慮に欠けるのでは?」


 睨みつけるような態度でそう言った兄を、殿下は貴族然とした優雅な微笑みで受け止める。

 そんな殿下の態度に、舌打ちでもしそうな渋面で兄は続けた。


「しかも相手は平民だという。よりにもよって、()()()()()()()()()()()に対してあてがうのが平民とは。よっぽどマリアンヌのことを信頼しているのか。それとも、王族の教育は受けていらっしゃらないのかな?」


 王族に対して嫌悪感丸出しで皮肉を言う兄。いくら従兄弟とはいえかなり不敬ではあるが、兄がこうなるのは私を心配してのことだ。


 私の固有魔法は、人を操ることができる。これはバレンティ家の者たちと王族にしか知られていない国家重要機密だ。

 そんな気は全くないけれど、この魔法を使えば、私は簡単にこの国を乗っ取ってしまえるだろう。いわば私は、ベアステラ王国にとってかなりの危険人物なのだ。

 もしも私が平民と結婚し、王家にとって都合の悪い思想が芽生えてしまったら?私には、その思想を貫き通せるだけの力がある。べアステラ王家が私をクリス殿下との婚約で縛ろうとしていたのも、近くに置いて監視し、ある程度コントロールするためだ。


 そんな私が平民との結婚などで王家の目の届かないところに行くとなるとどうなるか。

 王家は将来の私を恐れて暗殺者を差し向けるだろう。

 兄が殿下に言っているのは、殿下は私の命を危険に晒すような提案をしているぞ、分からないのか?と言外に仄めかしているのである。


 兄の言いたいことをしっかりと理解しているであろうクリス殿下は、相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。

 殿下の涼やかな水色の眼が、真っ直ぐに兄を見た。


「色々な条件を加味した上で、マリアンヌにお似合いだと思ったんですよ。実際、マリアンヌもルーカスも、お互いを気に入った様だし」

「だから!!平民の男のどこがマリアンヌと似合うとーー」

「ルーカス、というのは……」


 殿下の飄々とした台詞に、兄が怒気を孕んだ声を上げる。そこに父の声が割り込み、兄は言葉を飲み込んだ。

 父は、どこか信じられないという顔をしながら、慎重に尋ねる。


「あの、私の知っているルーカス、で合っているか?黒い髪に、青い瞳の……私のもう一人の甥……」

「はい。私のたった一人の弟。ベアステラ第二王子、ルーカス・ベアステラです」

「第二王子……?」


 兄が、第二王子なんていたか?という顔をする。


「ライアンは、ギリギリ覚えていないか?マリーやクリスと同い年の、黒髪の王子だ」

「黒髪の?覚えがありませんね」


 兄の答えに、父はそうか、と寂しげに溜息を吐いた。


「リオナ様が暗殺を恐れて王城の外に出さなかったからな……」

「父上、リオナ様、というのは?」


 兄が、父に質問しながら、私の方にも視線を向ける。その目が「お前は知っているか?」と言っていたので、ふるふると首を横に振った。


 私達兄妹の反応に、父は眉を下げてクリス殿下を見る。殿下は父の言いたいことを察したのか、こくりと頷いた。


「リオナ様やルーカス王子の話は、二人が行方不明になった十年前からタブー視されている。これは陛下が二人を失ったことに大変心を痛め、そのせいで王城も荒れてしまったからだ。当時の話を知る者は、知らない者に何も話すなという御触れも出た。勿論、王族史からも名を消されているから、当時幼かったライアンやマリアンヌが知らないのも無理はない」


 では、この話は私達にしてはいけないということでは?兄妹の間に緊張が走る。大丈夫なのかという確認を込めて見ると、殿下はふわりと微笑んで父の言葉を継いだ。


「御触れでは二人の話をするなと言っていますが、要するに第二王子の存在を忘れろと言っているのです。……当時、王城は第一王子派と第二王子派の貴族間で政権争いが起きていました。国王は、ルーカスとリオナ様が政権争いに巻き込まれた末に行方不明になったと考え、第一王子である私と母の身を案じてそのような御触れを出す決断をなさったと聞いています」


 クリス殿下の微笑みが、途端に悲しいものに見えてきた。


「しかし、いくらクリストファー殿下や王妃様を守るためとはいえ、ルーカス様とリオナ様をいなかったことにしてしまうなんて……」


 うっかり国王批判をしてしまいそうになって、慌てて口を噤む。

 そんな私を悲しげな目で見た父は、そうだね、と同意の言葉を口にした後、静かに語り始めた。


「国王陛下がそういう御触れを出さざるを得なかった理由は、当時国王が病から回復された直後で、王城内の綱紀を粛清するだけの体力と求心力が戻っていなかったからだ。当時まだ五歳の王子達を担ぎ上げて政権争いが起こったのも、王の病のせいだった。……今はもうすっかり回復して、元来の体力お化けに戻っているがな」


 普段、陛下に無茶振りをされている国王補佐の父の、ささやかな嘆きが混じる。そんな父にくすりと笑って、クリス殿下が話を引き継いだ。


「父王が病に倒れた時、王城内ではもしもの際、私とルーカスのどちらが王位を継ぐのかに関心が集まっていました。王位継承権的には、第一王妃の子であり、陛下の第一子である私が一位でしたが、ルーカスは当時の聖女でもあった第二王妃の子で、私との歳も一月違い。何よりルーカスの容姿が、髪の色以外は陛下にそっくりだったため、第二王子派の貴族も多かったと聞いています。……私は完全に母親似ですから」


 殿下の言葉から、彼の第一王子としての苦労が透けて見えた。確かに、クリストファー殿下は顔立ちや髪と瞳の色、得意魔法に至るまで、王妃様にそっくりである。魔力を使うと紅く変わる瞳だけが、国王に唯一似ているところだろう。


「当時の王城の荒れようは、公爵家を継いだ私に王位継承権復活を望む声が出るほどだったからな」


 父が眉間を揉みしだきながら、当時を回想する。


「だから陛下は、王位継承権で周囲がこれ以上揉めることのないように、行方不明になったルーカス王子とリオナ妃のことは最初からいなかったことにした。その上で、これ以上妃を娶らないことを宣言したんだ。これにより、王位継承権を持つ者はクリストファー王子一人となり、政権争いも起きにくくなる」

「勿論、陛下は秘密裏にルーカスとリオナ様のことを探していました。しかし、二人が行方不明になったその日、悪天候だったことも重なり、二人の痕跡を見つけられなかったのです」


 殿下の麗しい顔に影がさす。私達も、その話を神妙に聞いていた。


「……しかし、学園でルーカスを見つけた時は、本当に驚きました」

「そうだ!結局、彼らは今まで、どこでどうしていたんだ?」

「リオナ様とルーカスは、行方不明となったのちにまだ平民だったスコット男爵家に身を寄せていたそうです。二人とも大怪我をしていたところを、スコット夫妻が助けた、と。ルーカスの怪我はリオナ様が魔法で治療されたそうですが、ショックが大きかったからか、彼は記憶を失ってしまっていたそうです。リオナ様の方は、怪我が祟って翌年にお亡くなりになったと聞いています」

「リオナ様は、ご自身に治癒魔法を使えないとおっしゃっていたからな……」


 父が、痛ましげに顔を伏せた。

 公爵家の食堂に、重い沈黙が降りる。私達バレンティ公爵一家は、世間から怖いイメージで語られがちだが、実は非常に情の深い一家なのだ。こんな話を聞かされたら、皆しんみりとしてしまう。


 そんな私達の中に混じる、情は切り捨てろと教わっているであろうクリストファー殿下は、

「さて、話を戻しましょう」

と前置きしてから、本題を話し始めた。


「この度、私の私情からマリアンヌとの婚約を解消することとなりましたが、王家の人間として、やはりマリアンヌ・バレンティには王家に連なる者との婚姻を望みます。現在、王家直系の未婚の男子は私しかおりませんが……ルーカスが第二王子の地位に戻れば、マリアンヌ・バレンティ公爵令嬢に相応しい婚約者になると考え、二人を引き合わせました」


 殿下の言葉に、父がうぅんと唸る。


「確かに、第二王子とならば釣り合いは取れるが……本人は記憶喪失で、自分は平民だと思っているということだろう?」


 大丈夫なのか?という父からの言外の質問に、殿下はにこりと微笑む。



「スコット家の子息と一緒に貴族教育も受けていたそうなので、礼儀作法に問題はありません。王族教育はこれからでも間に合いますし、臣下に下ればそれも必要ありません。何より、彼はマリアンヌのことを気に入っています。マリアンヌと結婚するには王族の身分が必要だと分かれば、自分から戻ってくるでしょう。それに……」


 殿下はそこで一度言葉を切って、意味深に笑みを深くした。


「次の王妃のお茶会で、第二王子が見つかったことを大々的に発表しようと思っています」


 それは、明らかに本人の了承を得ていない決定事項の報告だった。これから社交界の注目の的になるであろうルーカス様に、同情が禁じ得ない。私が支えて差し上げなくては!!


「私、ルーカス様にお会いしてみたいわ」


 私が決意を新たにしているところに、今まで沈黙していた母が鷹揚に声を上げた。

 急に発言した母に、皆の視線が集中する。それら全ての視線を受け止めて、母はにっこりと笑顔を作った。


「マリー、何か適当に理由をつけて、ルーカス様をうちにお呼びなさい。将来家族になるかもしれない方ですもの、直接お会いして、ご挨拶したいわ」

 それに、と母は続ける。

「そうすれば、全て分かるもの」


 母の作られた笑顔の裏に、ルーカス様を本気で見定めようとしているのを感じた。()()()()()()()()()()()()が直接会うとは、そういうことだ。

 誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。


「ジョージも会ってみたいでしょう?」


 そんな異様な空気を作った張本人は、その空気を壊すように父の腕に手を置いて、甘えた声を出した。すっかりいつものラブラブ夫婦モードに戻っている。

 父も、そうだね、と同意しながら母を優しい目で見つめた。


「ヴィオもこう言っていることだし、近いうちにルーカスを連れておいで。婚約の話はそれからでも遅くないだろう?」

「出会って数日で好きな子の両親に挨拶することになるなんて、いくらなんでも彼が可哀想じゃないか?」


 さっきまで私とルーカス様のことを反対していた兄が、急にルーカス様を憐れみはじめた。同じ男性として、なにか思うところがあったのかもしれない。

 さすがお兄様、本当に情の深いお方だ。


「マリアンヌに会いに来たら私達に出会った、という体でいこう。これならルーカスもそんなに構えずに来れるんじゃないか?」

「そもそも、マリアンヌに会いに公爵邸に来ること自体が平民だと思い込んでいる彼には難しいのでは?」

「そうですね……確かに、ルーカス一人でマリアンヌに会いに来るように仕向けるのは難しいでしょうね。ルーカスの主人と一緒に、公爵家で夜会の練習をしようと誘うのはいかがですか?何人かまとめて呼べば、目的のカモフラージュにもなりますし」


 それだ!と男性陣だけで話が進む。

 母は父の様子を微笑みながら見ているだけで、口を挟む気は無いらしい。


 私は私で、ルーカス様と過ごす時間が増えるなら、どんな理由をつけて我が家に招こうと構わない。ルーカス様と一緒になるのに必要ならば何でもやるし、万難は排除する。そんな覚悟でいたけれど、思っていた以上に家族が前向きに考えてくれているようで、私は嬉しくなったのだった。

説明パートが長くてなかなか話が進まない…

早く恋愛をして欲しいんですけどね……

先行きが不安です。

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