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3-1 宣言

お久しぶりです。

第三章突入です!


 学園から馬車でバレンティ公爵邸の自室に戻った現在まで、私の脳内はルーカス様とのラブラブ甘々な妄想でいっぱいだった。


 私が「ルーカス様!」と呼びかけると、立ち止まって振り向いた彼は、サファイア色の瞳を細めて手招きする。私が小走りに駆け寄ると、彼は私を優しく抱き止めて、頭を撫でてくれるのだ。


「マリアンヌ…」


 そう、こんなふうに、私の名前を呼びながら…


「マリアンヌ……様」


 あら?なんか距離が遠くなったわ。でも、そうよね。ルーカス様は礼儀正しい方だもの。いくら妄想とはいえ、私がルーカス様に敬称をつけて呼んでいる間は、私のことも様付けで呼び続けて下さるかも。


「マリアンヌお嬢様!」


 ……さすがに、お嬢様呼びはないんじゃないかしら?ルーカス様はうちの使用人ではないのだし……


「お嬢様!!」

「名前の方が消えちゃった!?」


 閉じていた目をカッと見開くと、目の前にはうちのメイドの怒った顔が迫っていた。私のお花畑な頭の中では、メイドの私を呼ぶ声と、妄想の中のルーカス様の台詞が混ざってしまっていたらしい。


「ハンナ、ごめんなさい。全然気づいていなかったわ」

「いつも通り、夢の世界に旅立っていらっしゃいましたね」


 そう言って、メイドのハンナは溜息を吐いた。

 ハンナは私の乳姉妹で、昔から私に仕えてくれているメイドだ。明るい栗毛の髪をお団子にして、バレンティ家のメイド衣装である白い帽子をかぶっている。温かみのある深いオレンジ色の瞳が優しそうな印象を与えるが、怒らせると魔法で電撃を浴びせてくる、非常に怖いメイドだ。


「旦那様がお帰りになりました。お嬢様、夕飯のお支度を」


 言いながら、ハンナは晩餐用のドレスを私に着せ始める。「今日はこちらでいかがでしょう?」って、着せ始めてから訊くことじゃ無いわよね?


「お父様、今日は随分と早いのね」


 王城で国王陛下の補佐をしている父は、日々様々な業務に忙殺されている。そんな父がいつもより二時間近く早い帰宅。何かあったのだろうか?


 ドレスに袖を通しながら考えていると、ハンナが何故かじっと私の顔を窺ってきた。


「なあに?私の顔に、何かついてる?」

 だったら早く取ってよと言外に言いながらハンナを見ると、彼女は眉を寄せ、少し言い淀んでから口を開いた。


「いえ……お嬢様、お元気そう、ですね?」

「どう言う意味かしら?」


 頭の中が、疑問符でいっぱいになる。ハンナは尚も言いづらそうに、それでも手だけは手際よく動かしながら、私の機嫌を探るように視線を向ける。


「その……少し、衝撃的な話を耳にしまして。……ですが、お嬢様のそのご様子ですと、もしやお嬢様は何も知らないのでは無いかと不安に……」

「なんの話かさっぱり分からないわ。ところで、お父様のお帰りが早かったのは分かるけど、夕食の時間も早めたのはどうして?ハンナ、理由は聞いている?」


 私の質問に、ハンナは非常に言いづらそうに答えた。


「夕食の前に、少しお話をされたいそうです。……その、クリストファー殿下から、あるお話を聞いたそうで」

「まぁ、さすが殿下。もうお父様にお話なさったの?」


 全てに納得がいった私は、ハンナが私とクリストファー殿下の婚約解消の話を聞いて、私を気遣っていたのだと気付いた。確かに、私と殿下は使用人の前でもよく愛の言葉を掛け合っていたから、相思相愛に見えていてもおかしくない。

 実際は、お互いに自己暗示をかけていただけなのだけれど。


 私の反応に目を丸くしたハンナに、気を使わせてごめんね、と言う気持ちを込めて、今日の私の特大大ニュースを教えてあげることにする。


「ハンナ、私ね、恋をしたの。クリストファー殿下との婚約を解消したから、私はルーカス様と結婚するわ!!」


 私の宣言に、ハンナの瞳はますます大きく開かれ、深いオレンジ色の瞳が黄色味を帯びる。

 パリッ、パリッ、と空気中に電気が走り始めて、私は慌てた。

「ハ、ハンナ?魔力が漏れちゃってるわ。落ち着いて……」

 体をプルプルと震わせ、周囲に電気を散らしながら、ハンナは叫んだ。


「ルーカス様って誰ですか!!!!!」


ちょっと短いですが、キリがいいのでここで切ります。

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