幕間2 聖女エマ・ライオネル ①
幕間です。エマ視点です。
一話で終わらなかったため、続きます。
私の名前はエマ。元孤児で、五歳の時にライオネル辺境伯の養女になったため、今はエマ・ライオネルだ。
前世は日本の女子大生で、かなりのゲーマーだった。
そして今、私が過ごしているこの世界は、前世でやり込んだ乙女ゲームの世界。私はそのゲームの主人公である、聖女、エマ・ライオネルに転生してしまったらしい。
私が転生に気づいたのは五歳の時。孤児院で鏡を見ていたら、急に思い出した。
前世で異世界転生物が大流行りしていた影響で、現状の受け入れは早かったと思う。
ただ困ったことに、私はこのゲームをやり込んではいたが、それはゲームシステムが気に入っていたからであって、乙女ゲームの肝である恋愛ストーリーには全くと言っていいほど興味が無かったのだ。
このゲームは、主人公のエマが、ゲーム開始時の一ヶ月前に聖女の素養を見出され、ベアステラ王立学園に入学するところから始まる。
学園に入学したエマは、六人の攻略対象者の中から一人を選び、恋をする。エマとパートナーの間には、様々なイベントや試練が訪れ、それらを全て乗り越えて三年後、無事に王立学園を卒業し、彼と幸せになる、というのが正規のトゥルーエンドだ。
エマの一年時に、どの攻略対象者と親密度を上げるかで、その後のパートナーが決まる。パートナーが決まったら、そのパートナーに合わせてエマ自身が能力を上げることにより、正解のルートが開く様になっている。そして、正解のルートを引けば引くほど、ハッピーエンドに近づく、というわけだ。
この、エマが上げる必要のある能力というのが、攻略対象者によってかなり違う。
その中で私は、このゲームの「魔物を倒してレベルを上げ、強力な魔法を使いこなす」必要のあるルートが大好きだった。レベルを上げるやり込み要素や、魔法の使い所を考えたりと戦術を組める点が、RPGのレベル上げが大好きな私にブッ刺さったのだ。
この「魔法レベル上げルート」に行き着く攻略対象者は二人。第一王子クリストファー・ベアステラと、第二王子ルーカス・ベアステラだ。
二人のルートは何度もやり込んだ。どちらのルートもエマの聖属性魔法のレベル上げ必須で、しかもかなりの数の魔物を倒してレベル上げしないとトゥルーエンドに行けないのだ。
ステータスの振り方や習得する魔法の組み合わせを考えたり、戦闘仲間である王子の戦闘に指示を出したりと、本当に乙女ゲームなのか疑うほどに戦闘システムは凝っていて、それが楽しい。ステータスの振り方が1ポイントでも違えば、覚える魔法も変わってくるため、何度も周回して様々な魔法の発現条件や効果を探した。
しかも、どちらのルートも最後に戦う敵が強敵で、なかなか倒せない。うっかり主人公パーティーを全滅させてしまって、バッドエンドになった回も多い。まぁ、何十回と周回したおかげで、トゥルーエンドまで危なげなく行く道筋は確保できたけど。
そういうわけで、私は二人の王子のルートばかりをやりこんでいた。
一応他の攻略対象者のルートも例外を除いて一通りやってはいるが、攻略サイトを見ながらトゥルーエンドを目指してプレイしたため、正直あまり覚えていない。
ちなみにトゥルーエンドしかやっていないのは、私がハッピーエンド至上主義者だからである。たとえゲームの中とはいえ、人が悲しむところは極力見たくないのだ。
というかこのゲーム、実はバッドエンドがどのルートも全体的に重い。世界が滅んだり、国が滅んだり、攻略対象者が死んだり、主人公のエマが死んだりと、かなりヘビーなのよね。
王子二人のルートで見たノーマルエンドと言われるものでさえ、「それ本当に君たち幸せなの?」という様なエンドになる。そういうのを「メリバ」と言って、ある一定層の熱い需要があるらしい。……という知識は、この乙女ゲームを勧めてくれた親友が教えてくれたのだけど。
そういう事情もあって、私はこの世界の主人公、エマとして、どのルートでもいいから絶対にトゥルーエンドに持っていきたいと強く思っていた。
そして、どのルートでもいいと言ったところで、私にはクリストファー第一王子かルーカス第二王子のルートしか選択肢がなかった。
転生したこの人生、ゲームと違って失敗は許されない。ならば自ずと、確実にトゥルーエンドへ持っていける自信のある二つのルートに絞られるのだ。
本当は、一番簡単かつ全体的に優しめのお話のピーター・スコットのルートを選んだ方が、世界平和的にもいいのは分かる。彼のルートは全体的に小規模な世界で進んでいくため、失敗した時の周りへの影響は一番少ないだろう。
ただし、一回しかプレイしたこともなく、話もうろ覚えの彼のルートを選択するのはチャレンジが過ぎる。
しかも、彼のルートではエマの美術スキルを上げる必要があった。ゲーム内なら簡単に習得できるスキルも、現実世界で私が手に入れるとなると不可能に近い。
……ちなみに、私の中学の美術の評価は1で、提出物も先生を泣き落としたり、逆に泣かせたりしながら踏み倒していた。
高校は美術が選択制だったから、迷わず回避したけど。
そんな私が、ピータールートをトゥルーエンドに持っていけるわけがない。
他にも、エマの担任の先生ルートや王城騎士のルートもあるが、現実の私が習得するには難しいスキルが必要となる。攻略キャラ最後の一人に至っては、隠しキャラのため、そもそもルートに乗るのが難しく、前世では未プレイで終わっていた。
だから、二人の王子ルートの実質二択。
その二択のうち、私は前世で最もお気に入りだった、ルーカス第二王子のルートに入ることを決めた。理由は二つ。
一つは、ルートの最後の試練となるシナリオの物騒度だ。
第一王子のクリストファーのルートを選んだ場合、世界に魔王が復活し、人類滅亡の危機を迎える。その激強の魔王をクリストファー王子と二人で倒し、世界に平和が訪れることでトゥルーエンドを迎えるのだ。
一方、第二王子ルーカスのルートだと、後継者を巡って、第一王子派閥と第二王子派閥の政権争いに巻き込まれる。城内がごたついている間に、ダンジョンから魔物が溢れる事件が発生し、その対応にルーカス王子と向かうことになる。そこで、ダンジョンの奥のボスを倒してダンジョンを封印し、その褒美として王に王位継承権の返還を願い出て、ルーカス王子がライオネル家の婿養子となることになるのがトゥルーエンドだ。
つまり、第一王子ルート失敗だと魔王による人類滅亡で、第二王子ルート失敗だと魔物によってベアステラの国民が大勢犠牲になる。どちらもやばいが、人類滅亡レベルの魔王よりは魔物の方が対策の仕様もあると思う。
そして、理由その二。ルーカス第二王子ルートのエマの戦い方の方が、私の性に合っているから。ぶっちゃけこれがいちばんの理由だし、ルーカス王子ルートが好きな所以だ。
クリストファー第一王子と戦闘をする時は、エマは完全に彼のサポートに回る。主に防御魔法で敵からの攻撃を防ぎ、回復魔法で傷を負った王子を回復する。攻撃役は全てクリストファー王子で、その分彼はとても強い。
対するルーカス第二王子との戦闘だが、彼は強力な攻撃魔法を持たず、防御型の戦闘スタイルだ。そのため、メインの攻撃はエマが担当することになる。これが結構面白くて、防御魔法や回復魔法を自分にかけながら、物理的に魔物を殴ったりして攻撃するのだ。防御魔法のシールドに様々な効果魔法を重ね掛けて戦う方法は、頭を使うがやり甲斐があり、大好きな戦闘方法だった。
ただ、エマも基本は攻撃魔法が得意なタイプではないため、パーティーの火力が足りない。そこを補ってくれるのが、補助魔法で味方の戦力を上げてくれる存在、マリアンヌ・バレンティ公爵令嬢だ。
マリアンヌは、クリストファー第一王子の婚約者で、第一王子ルートだとエマのライバルキャラとして登場する。
しかし第二王子ルートだと、マリアンヌの好感度を上げることができ、上手くいけばエマの親友として、様々な場面で助けてくれる頼もしいキャラになる。マリアンヌの補助魔法は強力で、エマやルーカス王子の全ての能力を1.5〜2倍ほど上げてくれるため、彼女の攻略は必須級なのだ。
さて、二人の王子のパーティー戦闘の違いについて考えてみても、やっぱり選択するのは第二王子ルートがいいと思う。
クリストファー第一王子のルートは、王子の強さに依存するため、前世の記憶というアドバンテージを持つ私の介入できるところが少ない。一方で、ルーカス第二王子のルートなら、とにかく私が強くなりさえすればいいのだ。
幸い、今の私はまだ五歳。早めに戦闘訓練を始めれば、学園入学後の戦闘イベントを容易にこなせる様になるだろう。
そうと決まれば、善は急げ。毎年孤児院のバザーの日に視察に訪れるライオネル辺境伯に、私が聖属性魔法を使えるところを見せて、養子にしてもらおう。
次のバザーまであと一週間。伯爵に拾われるにはゲームの内容よりも十年ほど早いが、訓練開始は早い方がいい。
前世の記憶を思い出した影響で、今なら聖属性魔法を使えそうな気がするし、あと一週間もあれば準備には十分だろう。
そんな計画を考えつつ、鏡の前で簡単な防御魔法を使ってみると、無事に魔法が発動した。鏡の中の自分の瞳が、翠から薄い紫に変わっていて、ニヤリとする。
「問題なくやれそうね。でもやっぱり、防御魔法より治癒魔法の方が分かりやすいか。ライオネル辺境伯には治癒魔法を使うところを見てもらおう。自分で腕に傷でもつけるかな」
そうして一週間後、私は無事、計画通りにライオネル辺境伯の養女になることが決まった。
それからの私は、精力的に魔法の勉強や鍛錬に明け暮れ、積極的に魔物討伐にも加わった。聖女としての実力は、父であり、武人であるライオネル辺境伯の折り紙付きで、あとは成人になるのを待つだけだ。
ただ、伯爵令嬢としての実力は並以下の自覚がある。マナーは問題ないとは思うが、貴族の令嬢として振る舞う経験が圧倒的に不足しているのだ。
ライオネル領は王都から最も遠い領地であり、国防の重要な拠点でもある為、父は社交界シーズンに王都に行くことがなかった。当然私も、学園入学の数ヶ月前まで王都には足を踏み入れたことも無かった。
父は、社交界シーズンは母と共に王都に行くかと訊いてくれたが、鍛錬があるため断った。ゲームのエマなら伯爵の養女になるのは学園入学一ヶ月前だし、それまでは領地にいてもいいだろうと思ったのだ。
だから私は気付かなかった。
私がイレギュラーな動きをしたことで、他のゲーム内キャラの動きも変わってしまっていたことを。
幕間、エマの秘密の巻、でした。
思っていたより長くなってしまったため、エマ視点もう少し続きます。
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