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2-7 ピアス

本日更新ふたつ目です!

今回は前回の最後を冒頭に入れていないです。

 クリストファー殿下は、室内の全員が俺のピアスの色を確認し終えるのを待ってから、魔力灯を消した。そして、驚き顔のピーターや、動揺のかけらもないエマの顔を見た後、俺の顔を見て微笑んだ。


「ルーカス。私の弟の右耳のピアスは、父の瞳の色を再現するために、魔力灯の光で色が変わる魔石を使っていると聞いている」


 初めて知った自分のピアスの秘密に、俺は呆然とする。


 そもそも、魔力灯はとても高価な物で、貴族が財力を見せびらかす為に舞踏会場で使うか、蛍光灯で劣化する可能性のある物を置いてある施設に置かれるという、出会うのが限られる代物なのだ。

 そんな高価な魔力灯など、平民の自分の身近にあるわけがないし、気付かないのも無理はない。そう、思っていたのだが……


「そういえば、父さんの絵画倉庫でルークのピアスを見た時、赤くなってたような気がする……絵の方に気を取られて忘れちゃってたけど……あそこも魔力灯が光源だから」

 ピーターが衝撃発言をかましてくれた。

 ということは、ピーターは知っていたということだ。俺の右耳のピアスが青から赤に変わること、そして、あのピアスは俺の父親の瞳の色だということを。

 だったら、貴族教育を受けた時に何故気付かなかったのか?

 魔力を通すと紅く変わる瞳は、ベアステラ王国直系の血筋の証だと習ったはずだが……


 俺がジトリとピーターに視線をやると、彼は俺の言いたいことを理解したようで、

「だって、勉強中はただ覚えることに必死で……」

と、ごにょごにょ呟いていた。


 そんなピーターと俺を見ていた殿下は、エマにアイスブルーの瞳を向けると、

「これで、彼が私の弟だという説に説得力がでたかな?」

と笑みを向ける。


 エマはその笑みを大きな翠の瞳で真正面から受け止めて、

「まぁ、第二王子替え玉説は否定できないけどね?そっくりの別人に、ピアスを付け替えればいいだけだし」

と言ってのけた。


「それもそうだが、ルーカスが魔法を使ってみれば自ずと分かることだと思うなぁ。……知っているかい?紅く変わる瞳はベアステラ王家直系によく生まれるが、もちろん稀に、紅く変わらない瞳の子も生まれる。しかし、何故か現王の子どもだけは、全員100%の確率で紅く変わる瞳の子が生まれるんだ。原因不明の、オカルトみたいなものなんだけどもね」


 そう言いながら、殿下は俺に意味深な笑顔を向けてくる。


 俺は、申し訳なさに縮こまってしまった。


「すみません、俺、魔法がまだ使えなくて……」

「そうか、じゃあ追々、授業で分かることになるだろうな。君の紅く変わった瞳が見られるのを楽しみにしているよ」


 殿下がニコニコとそう言うのを聞いていると、本当に俺が第二王子だと確信していらっしゃるのが伝わってくる。

 相変わらず俺には一つも記憶が無いので、殿下の自信満々な発言にも眉を下げることしかできない。

 俺の困り顔を見てもなお、慈愛の表情で俺を見つめてくる殿下は、完全に俺のことを弟として見ることにしたのだろう。そんな殿下が、ふと気付いたように言った。


「そういえば、ルーカスはどういう経緯でスコット家の従者になったんだ?」

「スコット家の方に拾ってもらって、恩があったので、従者になって恩を返そうと……」


 俺の答えに、殿下は眉を顰める。


「拾われた?そもそも、急に行方不明になって、どうしたんだ?***様はどうした?」


 説明しようにも、スコット家に拾われるまでの記憶は俺には無い。それに、殿下の言葉に一部聞き取れないところがあった。


 俺が途方に暮れていると、横から声が上がった。


「あの、ルーク……ルーカスは、僕の家に初めて来た時から記憶が無かったんです。自分の名前だって忘れてて、***さんから聞いた名前を本人に伝えたくらいです」


 ピーターが、頑張って俺のために喋ってくれていた。緊張で、今にも倒れそうな顔をしているが、その眼は使命感に燃えている。…ところでピーター、今なんて言った?


「***様もご存命か!私もご挨拶したいのだが……」

「いえ、彼女はお亡くなりに……僕たちのところに来てから一年程で。そしたらルーク、彼女のことも忘れてしまったんです!」


 ピーターが泣くように叫ぶと、クリストファー殿下の眉が顰められた。


「そうか……亡くなられたか……************」

「はい。ルークは***さんと***************、何故か***さんの***************」

「********?それは変だな」


 王子殿下とピーターが何か話し合っているが、変な認識阻害がかかったようによく分からない。

 こういうのは、いままでの経験上、きっと俺の母の話をしているのだろう。


 二人の話が殆ど分からず困った俺は、とりあえず曖昧に笑っていた。そんな俺に、じっと二人のやりとりを聞いていたエマが問う。


「ねぇルーカス、あなたには今、二人の会話がどう聞こえているの?」

「いや……なんか、よく分からないんだ。たまに分かる部分もあるけど、それ以外にはなんか、不自然に靄がかかっている感じというか……」

「今あの二人は、あなたのお母さんの話をしているわよ?今の私の言葉は聞き取れた?」

「あぁ。エマの言葉は全部聞き取れてるよ」

「そう……************************」

「今のは聞き取れなかった」


 俺の言葉に、エマはふむ、と顎に手を当てた。そして、ブツブツと何か独り言めいたことを呟いていたが、俺には靄がかかって聞き取れなかった。


 混沌としてきた空気に俺が途方に暮れていると、エマが突然、ねぇ、と大きな声で言った。


「ルーカスが認識できない話をしていてもしょうがないでしょ?それより早く、ランチに戻りましょう。休憩時間が終わっちゃうじゃない」


 殿下とピーターは、急に大きな声を出したエマにびっくりした顔を向けていた。

 しかし、殿下はすぐに気を取り直して、

「ああ、すまなかった。そうだな。この話はまた今度にしよう」

と言ってようやくランチボックスを取り出した。


 そして、エマと殿下が何事もなかったかの様にランチタイムを楽しみだした横で、俺とピーターは顔を見合わせ、取り敢えず空気を読んでランチボックスの続きに手を付けたのだった。


この話は本当に難産でした。

書きながら、恋愛どこいった?と自問すること多々。

今は下地を育てていると思っていてもらえたら……


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