2-3 王立学園入学
今回も2個更新ですー。まず1個目。
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その日、俺はピーターと共にスコット家の馬車に揺られながら、ベアステラ王国立学園へ向かった。
道中ずっと、「怖いよ。どうしよう。行きたくない」などとピーターが青ざめた顔で呟いていたが、いつものことなので無視した。
俺の向かいに座って震えるピーターは、長めのアーモンド色の前髪とサイドの髪を涙で濡らしている。随分あどけないその泣き顔は、彼の低めの身長も相まって、年下にしか見えない。
最近では、二個下の妹のハンナと並んでもどちらが年上か分からないくらいだ。
「もし、ルークとクラスが離れちゃったらどうしよう?」
「まぁ、俺は平民としての枠で入ったから、貴族のお前とは離れるかもな。その時は、お互いクラスメイトと仲良くしよう」
そう言うと、ピーターが恨めしげに俺を睨んでくる。
「そもそも、なんでルークだけ平民枠で入学したんだよ!」
「俺は平民だからだよ。そして、お前は男爵子息な」
「一緒に貴族教育受けたのに……」
お前のためにな、と思いながら、それは言わずに、
「今日からは、俺はピーター様の従者ですから」
と笑えば、ピーターは目に涙を溜めながら、
「様付けしないで!!怖い!」
と耳を塞ぐ。
そんないつものやりとりをしながら、俺たちを乗せた馬車は王立学園に着いたのだった。
学園に着いてクラス分け表を見ると、俺とピーターは無事同じクラスだった。
「よかったぁ〜」
と、心底ホッとしているピーターとは対照的に、俺は、まぁそうなるよな、と思っていた。
何故なら俺は、王立学園にピーターの従者として登録されているからだ。
王立学園に願書を出したのは、スコット家が叙勲してから。
ピーターは貴族だから入学希望を出すだけで学園に通えるが、平民である俺には学力テストと書類審査があった。
元々は貴族のための学校だったベアステラ王国立学園にある、平民の入学枠は少ない。
家庭教師には、俺の学力的に問題なく入学できるだろうと言われていたが、一応、ピーターの従者だと書類に書くことで選考に有利になると言われ、迷わず書き足した。
だから、主人のピーターと従者の俺が同じクラスになることは、もはや決まっていたようなものである。
泣かれそうだから、ピーターには言っていないが。
「さぁ、クラスも分かったことだし、式まで教室で待機らしいから、行こうか」
俺の言葉に、安堵の涙を浮かべていたピーターは笑って頷いた。
俺たちにとって、なんら普段通りのやり取り。であるはずなのに、何故か周りの視線が痛い。
ヒソヒソと会話する声を探ると、なるほど、理由はすぐに分かった。俺の黒髪が目立っていたのだ。 俺にとってもスコット家の人間にとっても、俺の髪が黒いことは当たり前だったため忘れていた。
別に悪口を言われているわけではないのだが、注目されて居心地が悪い。それに、俺と話しているピーターにも自然と視線が集まるため、彼も縮こまってしまった。
これはいよいよ、早く教室に入ろうと、ピーターの肩を掴んで歩き出そうとしたその時、
ザワッ
向こうの方で人が一斉に動く気配があった。
俺たちに向かっていた視線も、そちらへ向かう。
俺も、みんなに倣って気配の先に視線を向けた。
そこには、プラチナブロンドの髪を靡かせた、涼やかなアイスブルーの瞳の男がいた。背筋をピンと伸ばし、颯爽と歩いている。
「クリストファー第一王子よ」
誰かがそう言った。
どうりで、気品が溢れているわけだ。ロイヤルな方は違うな。
などと思いながら、俺は今のうちにと、ピーターと教室に向かったのだった。
「王子様初めて見た〜」と、ルーカスは呑気に思っています。ピーターはなぜか涙目です。きっと王族が怖いのでしょう。




