97話 入らずの森
暗殺ギルドに狙われているとは思ってもいないカイトは、先を急ぐ
為に森を突っ切る事にした。
それでも、王都まではまだかかりそうだった。
この森の中央には世界樹という大きな木が聳え立っている。
それは地図には載っておらず、見える人しか見えないのだという。
魔力を通せば肉眼でも見えるが、普通の状態だと何もないただの森
だった。
魔力を通した状態を維持しながらは結構体力を使う。
そして、何よりも不思議なのは通常の肉眼で見た景色と、魔力を通
して見た景色が異なっている事だった。
『入らずの森』と名づけられた由縁がここにあるようだった。
ただの森の中なのに、足元がいきなり崖のようになくなるのだ。
これはそのまま歩いていたら落ちているところだった。
阻害魔法が森全体にかかっているようだった。
この辺はエルフの縄張りだと聞いている。
森に住む太古の種族で、耳が尖っているのが特徴だと聞く。
あまり人前に出てくることがなく、たまに奴隷商が連れているのを
見る程度だった。
だからだろうか、人間には特に警戒心が強いと聞くと。
魔法を得意とする種族で、魔力も人間の何倍もあるという。
「ちょっと興味はあるけど……今回はパスかな〜」
魔力をこめると、一気に森の中央を抜けようと考えたのだった。
世界樹の葉は万能薬につかわれるという。
ぜひとも一枚欲しいところだった。
少し欲が出ると、中央の木まで走りだす。
側には、集落があったが避けるように早足でかける。
気づかれなければ怖くはない。
気配を消して、音も立てずに通り抜けた。
そんな時だった。
いきなり大きな音が鳴り響いたのだった。
「敵襲だぁぁぁーーーー!!」
「広場に集まれ?戦士は武器を取れ!」
大声が響き渡り、森全体に響き渡ったのだった。
まさかもう見つかったのか!?
気配はしっかり消していたはずだった。
周りを見回しながら警戒を強める。
すると、地響きがして何かが近づいて来ていた。
段々近づいてくる。
足音が大きくなり、振動が響き渡る。
森の気配が一気に変わる。
静かだった森に、ピリピリとした緊張が走る。
そこに顔を出したのはオークの群れだった。
先頭には小ぶりのオーク達が並び、列を成すようにこっちへと
向かって来て居た。
向かう先には中央に聳え立つ世界樹がある。
周りに張られた阻害魔法をものともせず行進して来て居た。
「どうなってるんだ……途中の崖はどうやって超えて来たんだよ…」
真っ直ぐに来るには途中に幅の広い亀裂が入っている。
阻害魔法で普通の森の中にいるように見えているが、実際は足元に
は何もない。
普通にまっすぐ来ていれば、そこで落ちて死んでもおかしくないほど
の幅が開いていたはずだった。
まるで阻害魔法が効いて居ないような気がする。
そして、周りを監視したところで見覚えのある顔を見つけた。
「あいつは………」
勇者パーティーに居た魔法使いのイーサだった。
史上最年少にして、今世紀最大の魔力量を誇る最高の魔法使いと噂
されていた人物だと聞いている。
噂とは意外とあっていないものだった。
最大火力がこの前見たくらいだったのなら、リリーの足元にも及ば
ないといえるだろう。
カイトの師匠はこの世界で1番すごくて、優秀なのだと思う。
だからこそ、こんな侵攻を見過ごす訳には行かなかったのだった。




