95話 生きた宝箱
ボスを倒してゲットする宝箱!
これには冒険者とて、誰もが心躍る瞬間だった。
シェナは飛びつくようになんの警戒もせずに近づこうとしていた。
「シェナさん、止まって!」
「カイトさん?宝箱ですよ!宝箱!」
「分かったから落ち着いて…それ生きてるから…」
「……生きてる?宝箱が?」
シェナがカイトの言葉に不思議と興奮していた自分を恥じた。
生きている宝箱といえば………一つしか思いつかない。
「エルドラさん、気づきました?」
「はい……シェナちゃん、それどっちもミミックよ」
「えぇーーーー!せっかく宝箱ゲットだと思ったのに……」
「大丈夫よ、ミミックは倒せば必ず金貨になるのよ?」
「でも〜未知のマジックアイテムがぁ〜〜〜」
「いいじゃない、換金に楽な方がいいわ。それに金貨ならレートが
決まってるから鑑定詐欺にあう心配もないわ」
残念そうにしているシェナを慰めるようにエルドラが笑う。
確かに、下手な使い方がわからないアイテムよりはミミックのが楽
ではあった。
「じゃ〜、シェナちゃん。やっちゃって!」
「うぅ。くそぉ、ミミックの〜〜〜、ばかぁぁぁーーー!!」
叫びながらカイトと同時に宝箱目掛けて剣を振り下ろしたのだった。
急に叫び声をあげると宝箱から手足が伸びてジタバタしてからピタリ
と止まった。
魔物の口の中に現れた金貨を掴むと荷物へと入れて行く。
カイトも鞄に入れるふりしながら指輪の中へと収納していった。
「後で分ければいいですよね?」
「あぁ、そうだね。今は回収だけ急ごう」
「そうね…ほら、シェナちゃんも手伝って」
「うん…分かったわ」
金貨を回収し終わると奥に光る魔法陣が出ていた。
ゆっくりとだが光が消え始めていた。
「あれって光ってるうちに入れって事かな?」
「まぁ、そうよね。早くいくわよ」
「うん……あれ?カイトさん?」
「あ…うん。すぐに行くよ」
カイトは隅に何かがあると確信していた。
視覚では見えないけど、魔力を通すと透明な何かがあったのだ。
触ろうとしたが、触れない何か……。
もしかしたらと思い指輪に収納すると、入ってしまったのだった。
アイテムボックスの表示には『透明な宝箱』と表示されていたのだった。
魔法陣はダンジョンの入り口に繋がっていた。
ここは脱出用のアイテムを使った時と、ダンジョンをクリアした時に出て
くる場所だった。
有料だったが回復術師が待機していてくれる場所でもあった。
そもそもダンジョンに潜る際に脱出用のスクロールを売っている。
危なくなった時に破ると、自動的にここに出てくるのだ。
ただし。ボス部屋には通用しない。
これはどこのダンジョンでも共通認識だった。
「お帰りなさい、回復は入りますか?」
「いえ、大丈夫です」
「ご苦労様です」
カイトとシェナはにこやかに挨拶をすると、3人で出て行く。
ギルドホールに帰ると、早速相場で金塊を換金した。
「お疲れ様です、これは……ミミックですか?」
「はい。運良く2体いたので……」
「すごいですね〜、なかなか出会えないんですよ〜、皆さんは運が
いいですね」
「そう…みたいですね……はははっ……」
ボスのドロップは杖だった。
リッチは魔法に特化した魔物なので使っていた杖を落としたのだろう。
エルドラの今使っているのが、古いもののようで、これから使って行
くにはあまりにもお粗末過ぎる。
そこで、今回のボスのドロップはエルドラに渡したのだった。
「本当に私が貰ってもいいんですか?」
「うん、いいよ。僕には自分のがあるしね」
「嬉しいです……」
「エルドラいいな〜。私もいい武器欲しかったなぁ〜」
「今回はありがとう、楽しかったよ。これでパーティーは解散だけど、
これ、持ってて。」
カイトは自分の作ったポーションを一個づつ手渡したのだった。
「これって、あの時使ったやつ?」
「そう、でも……誰にも渡したり、人の見えるところで使っちゃダメだ
よ?多分効果は保証付きだから…」
確かに、あの時シェナを失うと思っていたのが、嘘のように治ったのだ。
こんなもの、簡単に使えるものではない。
ましてや、簡単に人にあげれる品物でもない。
「どうしてもって時にだけ使って。きっと助けになるよ」
「ありがとうございました」
「ありがとう……大事にします」
報酬を分けると、カイトはすぐにギルドを出て行く。
ロイエンのギルドの事はステラがなんとかしてくれると言っていた。
だったら、彼女に任せて次の街へ行こう。
そう長居の必要もないと判断したのだった。




