93話 憧れて
多分ここが最下層のボス部屋だろう。
ロイエンのダンジョンよりはランクが低く、初心者用のダンジョン
で知られているらしい。
それでも危険は多い。
ダンジョンに安全な場所など一個もない。
全ては自己責任なのだ。
その代わりダンジョンの宝箱には多くの財宝が眠っている。
そう考えられていた。
もちろん、買えないような高価なものが眠っている場合も多い。
が、たまに宝箱に扮した魔物立っている。
冒険者が油断して開けた瞬間手足が伸びてきて襲ってくるミミック
という魔物がいる。
これには魔法が効きにくく、物理攻撃で叩くしかない。
長い手足のせいか攻撃には避けて懐に入らなければならない。
大きな口を開けると中は異空間へと繋がっているとされている。
食べられたらおしまいとさえ言われているほどだった。
だが、弱点もある。思いっきり殴るのだ。
攻撃が本体にあたれば終わり。結構簡単なのだ。
だが、それが一番難しいとも言える。
ミミックだけのダンジョンもあると言う。
一度は行ってみたいものだ。
だが、今は目の前のダンジョンボスを倒す事だけを考える事にした。
目の前に浮かぶ浮遊体はリッチと呼ばれる魔物だった。
ボロボロのローブを纏い、空中に浮いていたのだった。
「シェナさん、前に出過ぎないように攻撃お願いします!」
「はい」
「エルドラさんは、距離をとって魔法攻撃!」
「でも……私の土魔法じゃ……」
「大丈夫です、杖にかけたエンチャントが効いてますから…」
杖に聖属性の魔法を付与してもらったのは知っている。
でも、それはさっきのアンデッド戦同様、直接叩く為のものだと
思っていた。
が、実際は違っていた。
土魔法を使ったはずが、そこに聖魔法も混ざって攻撃出来るのだ
った。
いくら魔法の遣い手といっても、これは規格外にも程があるのだ
った。
が、カイト自身気づいていない様子だった。
「これでは偉大な大魔法使いリリー・クライゼン様と一緒に戦って
いるみたいだわ」
エルドラの最大の憧れである。
数百年前の勇者の仲間であった過去最高の魔法使い、リリー・クラ
イゼン。
彼女の功績は今でも教科書に載るほどだった。
歴史書に載らないはずはないと言うほど、特殊だったからだ。
誰も真似できないような魔法に、最大の魔法総量。
それに加えて、全属性に通じていて、スキルを持っていないという特殊
な体質だった。
今では幼少期に教会でスキルを授ける儀式が行われるようになった。
が、昔はそんな決まりはなかった。
金持ちだけが教会でスキルを与えられた。
大人になると、スキルを受け取れない。
なので子供のうちにランダムで付与してもらう必要があった。
それを無視した同時スキルの乱用を可能にしていたのが、彼女リリー・
クライゼンだったのだ。
卓越した魔力コントロールに誰もが見惚れる美貌を兼ね備えていたと
聞いている。
エルドラはそんな昔の偉人に憧れていた。
が、今横にいるカイトにも同じ憧れを抱き初めていたのだった。




