91話 聖魔法
階段を降りると、長い通路が続いていた。
左右に石の柱が並んでおり、どこかの神殿の廃墟のような感じがした。
「ここにはアンデッドがいたりして……そしたら厳しいかも〜」
「どうして?エルドラなら魔法でいけるんじゃないかな?それにアン
デッドは物理攻撃に弱いし、炎にも弱い。シェナの付与って火でしょ?」
「気づいてたんですね。はい、その通りです」
「カイトさん、知らないんですか?アンデッドは壊してもすぐに蘇るん
ですよ?だから普通は聖女や、聖水を使うんです」
「そうなのか?聖水って高級ポーションを作る時に使うアレだよな?」
「そうです、下級ポーションは薬草だけでできますが、高級ポーション
と最高級ポーションは聖水の純度によります」
エルドラはポーション作りにも詳しいらしい。
カイトが作ったのは最高級に位置している。
もちろん、カイト自身が聖水を精製しポーションを作っている事は言っ
ていない。
「なら、ポーションを武器にかければいいんじゃないか?」
「カイトさん!なんて勿体無い使い方をしようとしてるんですか!高級
ポーションですよ!金貨何枚いると思ってるんですか!しかもアンデ
ッド如きに!アンデッドはドロップアイテムはないんです。だから戦う
だけ無駄な魔物なんです」
勉強している学生だけに詳しいようだった。
「だけどさ〜、ここの敵なんだけど……アンデッドであってるみたいだけ
ど?」
カイトが指差す先に、ガシャガシャと音を立てて歩いてくる一団体が見
えたのだった。
「嘘……でしょ………」
「走って通り過ぎるのはどうかな?」
「それはダメよ、追いつかれたらもっと大変な事になるもん。それに、
ダンジョンは迷路みたいなもので…行き止まりに入ったらおしまいよ」
エルドラはそう言う時に的確な判断が出来るようだった。
二人でやっていける理由はそう言うところにあるのだろう。
「だったら、やっぱり……」
「カイトさんは、そんな勿体無い事をしないでください」
「でも…何本もあるし……?」
「………何本も?」
「へーなんでそんなに持ってるの?カイトさんって結構金持つだったり?」
「別にポーションじゃなくてもいいんだよな?」
「うん…それは…そうだけど……」
カイトがシェナの剣に触れると、薄く光った。
「これは?」
「今、聖属性の付与を与えたから、これなら一回切ったアンデッドは復活
しない。あとは、エルドラさんに杖にも……ちょっと貸してもらっていい?」
剣と杖に魔法付与がつけられた。
杖で少し小突くと、骨がぼろぼろと壊れていく。
しかも、一箇所叩いただけなのに連鎖的に破壊されていく。
どれだけ付与が優秀かが伺えたのだった。
しかも、聖魔法って聖水だって簡単に作れるほどの属性なのだ。
「いっそ、エリアヒールでもかけておけば、勝手に倒せたりするんじゃ…」
「なるほど……その手があったんだ〜。それ…いいね!」
「え!使えるの?まぁ……今更驚かないけど………」
エルドラの呟きにカイトは思いついたかのように目の前にエリアヒールを
かけておいたのだった。
人間を見てぞろぞろと歩いてきては、ヒールエリアに入った瞬間、身体が
崩れていく。
何度見ても不思議な光景だった。
もう戦いですらなかった。
「これって私達いるのかな?」
「それを言わないで……冗談のつもりが使えるなんて思わないじゃない?」
「そうだね……」
シェナも戦う事をやめると、足を止めてこちらに戻ってきた。
しばらくは休憩しながら眺める。
やっと魔物の行進が終わったところで、魔法を解いたのだった。




