90話 援護
こんな日が来るとは思いもしなかっただろう。
魔法学園の生徒がまさかワイバーン討伐など、考えもしなかった。
もし、単独で見かけたら即座に逃げ出す部類の魔物なのだ。
ドラゴンのように火を吹く訳でもないし、重量がある訳でもない。
重量的には軽い方だ。
しかも、空を飛ぶといっても高度はそう高くない。
弓や、魔法などの遠距離武器が届く範囲での空中戦になる。
それが、今や地面に落とされ、それに飛び乗って叩き切るという作業
をしているのだ。
エルドラは遠距離から岩をぶつけ、落下したところをシェナが飛びの
ると背中にある石を思いっきり叩き割る。
もし、暴れ出しても即座にカイトが魔法で足元を凍らせる為、さほど
暴れる事なく止めをさせた。
エルドラにも、的を外して間近まできてしまった時は、下から援護射撃
が入る。
ギリギリのところで空中落下していく。
手厚い援護おかげか、難易度が格段に下がっている気がした。
ただ、攻撃は当たっているせいかレベルは上がっていく。
魔法の威力も最初に比べて格段い上がってきている。
「もう……これって作業してるみたいだわ」
「エルドラさん、ちゃんと前見て!もうひと団体来ますよ!」
「はーい」
下からする声に、気が緩んでいる事に気づく。
パンッと頬を叩くと、気合いを入れ直した。
杖を構えると、一気に魔力を練り上げたのだった。
下では、落ちてくるのを待って、落下位置のそばまで走っていく。
地面に叩きつけられた瞬間飛び乗って、起き上がる前に始末する。
近距離職にしかできない芸当だった。
遠距離職と、近距離職の組み合わせは、戦闘にはぴったり息が合
うと強い。
カイトのようにオールラウンダーと違い、普通はどっちかに偏って
しまう事が多いのだ。
「次ラスト、来るよ?」
「えっ……ラスト?」
「そう、このエリア最後っぽいかな〜」
「最後って……って、なんか大きくないですか!ちょっ…ちょっと
カイトさーん?」
上にいるエルドラから悲痛な叫び声が漏れてきたいたのだった。
確かに、今まで作業的に倒してきたワイバーンとは比べ物になら
ないくらいに大きい。
身体の大きさは倍はあるだろう。
一歩後ずさると、さすがに恐怖を感じたのだろう。
カイトはすぐに構えると氷を精製した。
そして空に向かった無数数を放っていた。
地面の方から無数の氷の刃が上空へと放たれた瞬間。
綺麗な垂直の柱が上空に上がったように見えた。
ちょうど、ボス的ワイバーンの腹のあたりから身体を貫き、翼までも
一瞬にしてボロボロにしてしまった。
有無も言わさず来たばかりで地面へと落下していった。
「よし、シェナさん、イケそう?」
「はい!ちょっとデカいけど、いけるわ!」
一気に落ちたワイバーンの身体を駆け上がると思いっきり剣を突き立
てたのだった。
それが倒し終わると、もう本当に飛んでこなかった。
このエリアには彼らワイバーンしか存在していなかったとでも言うよ
うに、あれから一体も魔物を見なかった。
そして次の階層へと繋がる階段へと辿りついてしまった。
「本当に、あんな呆気ないものなんでしょうか…」
「そうかな?でも、道々彼らが何度も襲ってきたらどう?困るんじゃ
ないかな?」
「確かに……」
普通なら、細い足場の岩肌にできた道を行く予定だったはずだ。
そこをワイバーンに襲われながら、と考えたらぞっとする。
入り口付近の岩場で全滅させたせいか今は悠々と歩いてこれたが、普通
はこんな簡単ではないはずだった。




