81話 エリアヒール
さっきよりぐったりしていて、シェナの反応も薄くなっている。
心配そうにポーションを握り締めるエルドラに心配いらないと
安心させる。
「ポーション……これだけしか持ってなくて」
「それは別の時に使うといいよ。それに……ちょっと待ってて」
カイトが仄かな光りを当てるとシェナの全身を包んだ。
そのまま矢を掴むと一気に一つづつ抜いて行った。
時折り悲鳴が漏れるが、抜いた場所から血が流れる事はなかっ
た。
抜いた側から傷が塞がって行く。
こんな現象初めて目にした気分だった。
同じ魔法使いといえど、習ったことなどない魔法だった。
「凄い……傷が勝手に塞がって行く……」
「すぐに直してあげるから…」
うっすらと意識があるシェナにカイトは話し続けたのだった。
言った通り、傷は綺麗に治ったのだった。
さっきまで血まみれで動けなかったシェナは、普通にピンピン
している。
エルドラは、今見た光景が嘘のようだった。
友人が死ななくてよかったと思う反面、奇跡を目にして動揺が
走る。
「カイトさん………貴方は何者なんですか?こんな魔法聞いた
こともないです。まるで聖女様のエリアヒールに常にかかっ
ている状態ですらここまでの回復力はなかったのに……」
一番回復に特化したのは教会で保護され、崇拝の対象となって
いる聖女という存在だった。
その聖女様の事は学園でも習ったらしい。
回復魔法に優れ、昔魔族との戦いで勇者パーティーで傷ついた
メンバーの為にエリアヒールをかけたとある。
一人にかけるよりも、決められたエリアに常に回復を施すとい
うものらしい。
しかし、ゆっくり回復という効果したあらず。
結局一人ずつ普通に回復させた方が早かったとあったのだ。
しかしカイトが使ったのはそんなものより格段に効果が高かっ
た。
矢を抜いた側から速攻で皮膚が治って行ったのだ。
「カイトさん、さっきのは……」
「エルドラさん、シェナさん、命は一つしかないんです。しっ
かりその場の安全を確保できるまでは一人で突っ込まないで
ください。」
「あ……はい」
「カイトさん、答えてください」
ムキになるエルドラにカイトは向き直った。
「エルドラさん、さっきのはエリアヒールです、ですが、教会
の使うのとは別物です。それに僕が回復を使えるのも誰にも
言うつもりも無いですし、回復を自慢するつもりもないです。」
確かに回復が使えるというだけで教会での裕福な暮らしが待っ
ているだろう。
だが、その反面で、自由にならない生活が待っているのだ。
幼少期によく聞かされた話に回復を使える少女の話を母から聞か
された。
貧しい家の娘がたまたま回復スキルを持っていた為に、その村で
は少女は常に親に連れまわされ、回復してはお金を稼いでいたと
いう。
そんなある日、教会の人間の耳に入って父親の元から連れて行か
れたらしい。
新たな人生が始まると思っていた少女に与えられた仕事は……。
教会に来るお金を持っている信者への回復行為と、性的行為だっ
た。
少女は大人になると、その場を抜け出しとある村でひっそりと
暮らして幸せになったという。




