80話 油断
久しぶりに宿屋でゆっくり眠れた気がした。
いつもは野宿だったせいで、緊張の連続だった。
近づいてくる少しの魔力も見逃せない。
そういう気持ちで探知形のスキルは常に張り詰めていたからだった。
ぐっすり眠れて、朝の目覚めがとても健やかな気分だった。
宿の飯も美味いし、快適だった。
あとは身体を洗う場所が裏の井戸というのが難点だった。
井戸水を汲んで桶に張る。
あとは手拭いで身体を拭いて今日の汚れを落とすのだった。
朝も顔を洗うと冒険者ギルドに向かった。
「えーっと……」
「カイトさーん!こっちです!」
大声で呼ばれて行くと、シェナとエルドラが装備を整えて待って
いたのだった。
「今日は正式にパーティー申請しましょ!」
「そうですよ〜、このダンジョンをクリアするまで一緒にいてく
れるって言いましたもんね〜」
「あぁ、うん…別に構わないけど………本当に僕でいいのかい?」
「他に誰がいるんですか?」
「……」
全く迷いのない二人を眺めると、頷いてギルドへのパーティー
報告をしたのだった。
これで仮のパーティーを組む事になった。
昨日のダンジョンへと行くとサクサクと魔物を屠って行く。
それも昨日よりももっと攻撃がスムーズになっていた。
「昨日よりも動きがいいね」
「本当ですか!」
「私も見てくれました?」
「あぁ、エルドラもよくやった。すごいよ」
「えへへ……」
どうしてここまで拘るのだろう。カイトには理解し難かった。
シェナとエルドラの動きは昨日よりも格段によくなっている。
カイトが言わなくても先に魔法の展開もしているし、反応速度も
速い。
「このままいくと、僕の出番が無くなりそうだね」
「そんな事ないです。カイトさんがいるってわかってるから思い
っきりできるんですから…」
エルドラの言葉に反応するかのようにシェナが前へと突っ込む。
「シェナっ!前に行きすぎだっ……少し下がって!」
「シェナもかっこいいところを見せたいんだと思いますよ?」
「それは安全が確保されてからでも遅くないだろ?」
「安全?でも…前には魔物が一体だけしか…」
エルドラも気づいていないようだった。
確かに魔物は一体で、すぐに倒せるだろう。
だが、それだけがダンジョンではないのだ。
「下がって、シェナさん!」
「大丈夫です!このくらい私だけでもへっちゃらなんで…」
カイトの言葉を無視して突っ込む。
さっきまで向かっていた魔物が急に引き返し下がって行く。
追いかけるようにシェナが前に踏み出した瞬間。
足元の床がガクンッと地面に沈んだ。
何かの仕掛けを踏んだらしい。
ガタンッと音がして、一瞬ピカッと何かが光った。
次の瞬間横の壁が不気味に開く。
あっと思った時にはシェナの全身に痛みが走っていた。
「キャァッーーー」
「シェナぁっぁぁーー」
身体に突き刺さる無数の仕込み矢の数に貫かれたあとだった。
エルドラが駆けつけるとポーションを取り出す。
矢を引き抜いてからでしか回復はできない。
が、こんな数を抜いていたら直す前に死んでしまうだろう。
ポーションにも数に限りがあるのだ。
「嘘でしょ……シェナ………」
「エルドラさん、立って!まだ目の前に魔物がいるのに座り込ん
でちゃダメだよ」
「でも…シェナが……」
「二人とも死にたいの?立って!もし二人しかいない状態だった
らどうするの?まずは安全も確保できてないのに戦いを放棄す
るの?生き残りたかったら立って、戦うんだ!」
カイトの言葉にエルドラは立ち上がり、杖を構えた。
「シェナ…ちょっとだけ待っててね」
「それでいい。まずは戦って安全を確認してからが大事なんだ…」
カイトはエルドラが魔法を唱える間、魔物の注意を引いた。
倒し終わると一旦、シェナを抱き上げ隅っこまで運んだ。




