75話 リリー・クライゼン
シェナは今初めて出会った男性に背中から温かい魔力を流して
貰っていたのだった。
男性との初めてのふれあいに、いつもは気丈な態度だったが、
今は顔を真っ赤にさせながら、じっとしていたのだった。
背中の中を温かい血管がゆっくり通っていくのが感じられた。
それが、きっとカイトの魔力なのだろう。
「とっても温かい魔力………」
「苦しくない?もうちょっとだからね……」
優しい声に、うっとりとしてしまう。
しかし、エルドラに見られていると思うと、気丈な態度を取ら
なくてはならなかった。
「へ……平気よ……」
「そう、なら…よかった」
カイトは丁寧にやっていく。
ここで無理にやるとせっかくの魔力回路が破損してしまう恐れ
があったからだ。
魔術とはそうやって才能があってもゆっくり開放していくもの
なのだ。
リリーが異常だったのだろう。
無理矢理魔力回路をつなげ、属性まで刻み込んだのだ。
あんなに乱暴に刻み込まれては、途中で何度も意識を失ったの
を覚えている。
確かに時間がなかったのもある。
食料はいつも魔法で切り飛ばされ、回復の泉で復活した。
残された血まみれになった自分の胴体が唯一のタンパク源だっ
た事を思い出すと、今でも吐き気がする。
「普通はあんな無茶はしない……よな……うん、しない」
「何かありましたか?」
「いーや、なんでもないよ」
時間をかけて流れを作ってやると、すぐにスムーズに流せるよ
うになったのだった。
「どう?順調にいけそう?」
「はい、前よりもすっごく上手くできそうです」
自分にバフをかけると、効果時間を測る。
一朝一夕で伸びるわけではないけれど、前よりかは無駄が減っ
た気がする。
あとは時間をかけて慣らしていくだけだった。
「カイトさんには、なんとお礼を言っていいものやら。二人とも
お世話になっちゃいましたね」
「いいよ、ダンジョンで死ぬ冒険者が減らせればそれで……」
「それに、気になってたんだけど…エルドラに教えてた時さ〜カ
イトって土属性使ってなかった?」
教える為に、見本として土属性を見せた覚えがある。
そして、今目の前の魔物に使っているのは炎属性だった。
「二つが使えるってことですか?」
「あぁ、これはね……師匠は全部の属性使えて居たんだ」
少し懐かしそうに語った。
「でも、全属性ってまるで伝説の勇者パーティーにきた魔法師く
らいですよね?奇跡の時代と呼ばれた伝説級の魔法師リリー
・クライゼン!」
師匠は結構有名だったらしい。
「その人って人族なんですか?」
「はい、もう数百年前に亡くなったとされているんです。確か
ロイエンに迷宮を作ってから亡くなったと聞いてますね」
「へ〜〜〜そうなんだ……もう、生きて会えないんですね」
「カイトさんったら面白い事を言いますよね?もう生きて会え
ないなんて〜、そもそも生きているわけはないんです。生き
る伝説ですよ?もし会えたら、すごい事ですよ〜」
それを聞く限りでは、カイトはすごい師匠を得た事になるよう
だった。




