72話 新たな出会い
いつのまにかE級冒険者になったカイトは手近なダンジョンへと
来ていた。
最近はパーティーを組まず一人で潜っていた。
王都にはある程度お金が貯まってから向かう予定だ。
別にナナに預かって貰っている討伐謝礼金はたいして欲しいわけ
ではない。
多分学生のナナの方が必要だろうと思っている。
が、元気にやっているかくらいは見ておきたいと思う。
一緒にパーティーを組んだ仲間として、先輩冒険者としての心配
でもあった。
ロイエンの街から結構離れたせいか、ダルカ達の話は聞こえてこ
なかった。
「元気でやってるかな……」
カイトが村を出るきっかけになったのはダルカ達だった。
だから、これだけは感謝している。
あの村にずっといたら、今のように魔物を倒す力は手に入らなか
っただろう。
一階の討伐を終えて、二階へ向かう階段を探す。
ここも、魔法があれば結構簡単に討伐できる魔物ばかりだった。
カキーンッと剣がぶつかり合う音が聞こえて来る。
魔物にしては随分と意外な行動だった。
そもそも魔物が剣を持つ事自体あまりない。
ゴブリンでさえ、木の荒削りの武器なのだ。
そうなれば、今戦っているのは冒険者同士という事になる。
「ちょっと、いい加減にしなさいよね!」
「な〜に少しだけだろ?夜は寂しいだろ?相手してやるって言っ
てんだよ」
「冗談でしょ!迷惑だって言ってんだけど?どっか行ってよ!」
「連れね〜な〜。俺たちと一緒のが安心、安全、気持ちい〜事は
し放題だって言ってんだろ?」
「そんな手には乗らないわ!これ以上近づいたら切るわよ!」
ジリジリと距離を詰められている。
女子二人でこのダンジョンに入ったのだろう。
それを見つけた男性4人のパーティーが声をかけてきたようだっ
た。
しかし、あきらかに下心丸見えな言動だった。
「はぁ〜、本当は目立ちたくないけど……仕方ないよね」
フードを被り揉めているグループに近づいていく。
「待たせてごめんね。さぁ、奥へ行こうか?」
「えっ………えぇ、そうね。エル、行こう」
「うん……」
一人は剣士で、もう一人は魔法師だろう。
さっきまで庇われていた、魔法師の少女は慌てて話に合わせてき
たのだった。
「おい、ちょっと待てよ?俺らが先に声かけたんだぞ?後で来て
おいて掻っ攫われちゃ〜ゆるせね〜よ?」
「そうか……でも、僕より弱いよね?」
「なんだって?」
「だって、負け犬ってよく吠えるっていうし?」
「のこの野郎、よくも言いやがったなぁ〜」
喧嘩は御法度とはいうが、この際仕方がない。
勝手に売られた喧嘩は逃げるか、買うかの選択しかないのだから。
「助太刀するわよ。元々私たちが絡まれたんだもの」
「いや、いいよ。下がっててくれる?」
「え……でも、相手は4人よ!」
「大丈夫だから……さぁ〜て誰から地面とキスしたい?」
こういう時は相手の神経を逆撫でするのが一番いい。
怒りは人間の行動を単調な攻撃に変えてしまうからだった。
思った通り、カイトが魔法師だと判断すると、距離を一気に詰め
て来た。
「魔法を練る時間を与えると思うか?」
「僕は魔法師なんて言った覚えはないけど?」
「なっ………ぐっ……アァッ」
ドンっと大きな音がしてさっきの飛びかかった男が近くに壁に練り
込んでいた。
一瞬のうちに何があったのか。
それは誰も見えていなかった。
誰もが魔法師だと思ったので、一気に距離を詰めて剣を振り下ろし
たはずだった。
が、実際は身体強化したカイトの拳が男に剣が振り下ろされる前に
腹に減り込むと吹き飛ばしたのだ。
さっきまでカイトがいた場所には、もう影すら無くなっていた。
後ろで呪文を唱える魔法師の杖を叩き割ると片腕を切り落とした。
そのまま後ずさる後ろの男の足の腱を切ると地面に転がり回った。
最後はリーダー格の男だけだった。
「お仲間は大変そうだけど……まだやる?」
「くそッ……おい、ずらかるぞ。」
「それが一番いい判断だね」
終わったと思うと剣をしまった。
ダンジョン内でも荷物は最小限しか持ち歩かない。
だからさっきの男もカイトが剣を持っているとは思わなかったの
だろう。
「ありがとうございました」
「ありがとう、助かったよ」
「いいよ、別に。でも、女性二人でのパーティーは気をつけてね。
僕はこのまま行くよ…」
「ちょっと待って!私達も一緒に行っちゃダメかな?」
「え……どうして?男は嫌でしょ?僕も一人のが気楽なんだけど…」
「それは………そうだわ!これ、これがあるから、きっと損はしな
いはずよ!」
そう言って出したのはこのダンジョンのマッピングされた地図だっ
た。




