66話 暗殺者
夜も更けて、寝静まった頃。
ちょうど寝静まった時間に、宿の廊下を音もなく忍び寄る者が
いた。
姿も見えず、ただゆっくりと部屋の鍵を解除して忍び込む。
下で明日の仕込みをする宿屋の店主も入った事さえ気づかない。
ましてや、侵入された部屋の主は、寝返りを打ちながら睡眠を
貪っていた。
ベッドのそばに来ると、薄い布団を剥ぎ取る。
薄くても布団を剥ぎ取られた主は、眠そうな目を擦りながら
ゆっくりと起きようとして、いきなり口を塞がれたのだ。
突然の事で、パニックを起こす。
そして、目を見開いた瞬間……首にあてがわれたナイフが勢いよく
横に引き裂かれていた。
声も発せず、ただ何もできないままどこか手を伸ばすが、そこで
パタリと動かなくなったのだった。
その侵入者はそっと部屋を出るとそのまま向かいの部屋に向かった。
そこには二つのベッドにお互いそっぽを向くように眠っていた。
素早く枕を掴むと引き抜き、顔に被せる。
一息つかせないほどに、一気に首を掻っ捌いた。
そのまま、寝返りを打ってこちらを向いたもう一人の心臓に思いっ
きり突き刺したのだった。
そのまま中から鍵をかけると窓から飛び出たのだった。
月夜に当たって黒い服に飛んだ返り血の赤が光る。
そのまま別の人と合流する予定らしい。
古びた教会に入っていくと、そこに待っていた数人と一緒に森へと
向かったのだった。
しばらくしたところにテントが張ってあった。
中では男女の影が揺れ動いていた。
「まだ起きてんのか?」
「ずっとお盛んなんだよ。こっちは暇じゃねーのによ」
「まぁ、まぁ、金払いがいいからいーじゃねーか?」
気配を消すと、ゆっくり近づいていく。
すると何かに察知したのか、テントの影が一瞬止まった気がした。
そして次の瞬間。
テントの中から剣が突き立てられたのだった。
侵入者の腹を貫き、中では舌打ちをする声が聞こえてきていた。
「チッ……」
「まさか…気づいて……」
よほど深く刺さっていたのか、引き抜かれると一気に血が溢れ出
していたのだった。
生きて捕まえて尋問するもよし、仲間が何人いるのかも把握して
もよし。
結局は全員捕まえてしょっぴいてから考えようと言う事だった。
「まずは一人目…だねぇ〜」
テントの中からする声に、侵入者達はたじろんだのだった。
「いや、ターゲットを殺せば俺らの勝ちだ!」
後ろで待機していたリーダー格の男は一斉にかかるように指示を
出したのだった。
暗殺ギルドのメンバーが暗殺されたなど、前代未聞だった。
新人冒険者3人の始末はさっき終わったと報告が来た。
残すは一人で動いているカイトという冒険者とベテラン冒険者の
セオドアとメンデという学者だった。
戦えるのは一人なので、そこまで苦戦するとは思わなかった。
仲間が一人、二人と切られていく。
これはまずい事になった。
毒矢をつがえるとゆっくりと引き絞った。
ちょうど仲間を切り裂いた瞬間に矢を放った。
足に突き刺さったが、即座に引き抜かれた。
さすがは冒険者だった。
それでも毒の中和は難しいだろう。
「メンデ!さっさと逃げな!」
「セオドアを置いて逃げろというんですか!嫌ですよ!」
「何バカなことを……」
二人はいい仲なのだろう。
逃げないなら都合が良かった。
賊にとっては都合が良かった。
ここで始末できれば、残すはたった一人なのだから。
毒が効くまで距離をとりながら応戦した。
そして動けなくなったところを手足を切断して最後に心臓に
剣を突き刺したのだった。
見ているだけしかできない学者の一緒に始末したのだった。
報告はそこまでだった。
あと一人がどうにも見つからなかったのだ。




