64話 旅立ち
依頼料は後日取りに来るようにと言われた。
ナナはそれでもよかったが、カイトはすぐにでもここを離れ
たかった。
「なんだい?そんなに急ぐのかい?」
「はい……このまま素材だけ売ってから出て行こうかと…」
「依頼料はどうすんだい?」
セオドアの言葉に、カイトはナナに預かっておいてくれと言
った。
「え……でも……」
「先に寄り道しながら王都に向かうから、そこでまた会おう」
「分かりました。それまでお預かりしますね」
「あぁ、それじゃ〜、僕はこれで」
もちろん、この後タークが暗殺ギルドに依頼をしたのだが、
その頃にはカイトはロイエンの街を出た後だった。
洞窟へと一回寄ると、そこにはリリーの姿はもう、どこにも
なかった。
「師匠〜……あれ?どこ行ったんだろ?死ぬような人じゃな
いしな〜」
少し不安ではあったが、置き手紙を残すと旅立つことにした
のだった。
風魔法を使えば、遠い距離でも一気に走れる。
これには魔法の応用が使われている。
リリーから学んだ魔法には奥が深い事を考えさせられたのだ
った。
「王都に向かう前にちょっと見ておかないとね…」
カイトが向かったのはワイバーンの群れが生息していた谷だっ
た。
今では見る影もなく焼けこげて、森すらも半壊していた。
他に至っては死体が山積みになっていたせいか魔物が集まって
来ていた。
魔物同士がお互いに強い魔物を喰らうのは自然の摂理としては
間違ってはいない。
だが、勇者が倒して放置した魔物を、強い魔物が喰らえば、今
以上の魔力が宿る。
そうなれば、魔物の進化を促してしまうだろう。
それでは生態系が崩れてしまう。
しっかり魔石を取り出して、死体を葬ってやらなければ後々面倒
なのだった。
「やっぱりそのままかぁ〜」
カイトは早速死体を集めながらズタズタに引き裂かれた死体から
魔石を取り出し、解体していく。
一部の素材しか販売はできない。
食料にするには肉が硬く美味しくない。
「どうしたものかな〜」
死体をそのままにはできない。
が、この大量の死体を燃やせるほどの魔法は簡単ではない。
一旦指輪に収納すると内臓は土に埋めた。
こういう時に土魔法は効果的だった。
穴を開けてそこに入れると魔法で土と混ぜ合わせる。
あとは熱を加えて発酵を促す。
土の下でちょうどいい温度で保つとガスが出て来て、その土は
作物を大きく成長させる肥料となった。
すると、焼けた死体の中に大事そうに卵を抱えているものがいた。
ワイバーンといえど、子供を育てる母親だったのだろう。
同情する気はないけど…やっぱり少し、もっと早く止めれればよ
かったなと思えて来ていたのだった。




