57話 隠れている者
状況は、非常にまずい状況だった。
子育て中のワイバーンは気が立っていて、もし数匹でも逃せば
近隣の村は壊滅するだろう。
竜と違って、小型ではあるが、群れで行動する種族である為、
仲間の危機とあらば、最後の一匹まで徹底抗戦するような過激
な本能を持っていた。
上空から降り注ぐ炎を避ける為に足で卵を抱えながら低い位置
を飛んでいる。
そのせいで勇者と格闘家の女性が交戦できている。
が、魔法も無限に使えるわけではない。
聖女の防御魔法や、回復もいつまで持つのか怪しくなってきて
いた。
ところどころで防御シールドをすり抜ける攻撃に怪我を余儀な
くされていたが、すぐに回復がかけられ、なんとか持ち堪えて
いる状態だ。
もし、今聖女の回復と防御が切れたり、魔法師の広範囲攻撃が
止まったらどうなるだろう?
魔物もバカではない。
一気に上空の手の届かない位置までいくだろう。
そして、一気に攻撃に転じるだろう。
そうなれば、一気にパーティーは瓦解する。
「どっちが先かな………」
カイトはただ見ている傍観を決め込むと気配を断つ。
自分に防御シールドを貼りながら気配探知にも引っかからない
ように気を使う。
周りの魔物はいない。
これだけ大掛かりな魔法の前では、魔物とて逃げ出していた。
後、気がかりなのはナナ達が無事に帰れているかと言う事だっ
た。
逃げた魔物はあちこちに散らばっていってしまっている。
調査依頼だけなので、戦う必要はないが、このまま放置という
訳にもいかない。
「後で後始末が大変そうだな〜」
ここで出ていって、敵と判断されるのは非常にまずい。
彼らには、撃ち漏らしがないように、殲滅してもらわねば困る
のだ。
ここまでやっておいて逃したとあれば、被害は甚大なものにな
ってしまうからだ。
広範囲魔法はコントロールがまだ未熟のようだ。
仲間の方には被害が出ている。
聖女がいなかったら、大怪我では済まなかっただろう。
「少し手伝った方がいいかな………」
リリー師匠お手製の杖を出すと、火力の弱まる魔法に、重ねるよ
うに炎の上位魔法を発動した。
それも、人を避けてワイバーンにのみ当たるように調整していく。
すると、聖女が声を荒げて叫んでいた。
「イーサ、もう魔法止めて!回復も防御も限界よ!これ以上は魔力
が足りないわ」
「もう、止めてるわ!すでに魔力はすっからかんよ〜」
「え……、ならこの火力は何よっ!……あれ?当たってない?」
そう、さっきまでと違い、炎の方が人を避けているのだ。
ワイバーンのみに攻撃を絞っている。
勇者ラキスの怪我も減り、アンも的確な誘導支援に少しイーサを見
直しかけていたのだった。
「イーサのやつ、いい調子じゃないか〜」
「あぁ、慣れてきたんだろうな?俺らに当てないように、攻撃が緻密
になってきているようだ」
「なら、こっちもサクサクいかないとね!」
「そうだなっ!」
気合いが入ったのか、一気に二人は追い立てたのだった。
魔法が止む頃には、地面を夥しい数のワイバーンが息絶えていた。
「俺ら最強じゃね?」
「お疲れ〜、イーサなかなかに援護が上手くなったじゃないか〜」
「そうだぞ、見直したよ。最後の方は火力も上がってたし、俺らを
避けてくれただろ?」
「……」
「……」
そのラキスとアンの反応に聖女イザベルも、魔法師イーサも答える
事ができなかった。
後ろから援護をしていたハニエルはため息がてらに、事情を説明し
始めたのだった。
途中から魔力切れで、魔法が止まっていたにもかかわらず、広範囲
魔法が続いていたことや、それがどうにも精密なくらいに精度が良
かったこと。
前衛を避けつつ、魔物のみを撃ち落としていた事。
どれも高度な技術であって、イーサではない事を語ったのだった。
「おいおい、それって誰がやったんだよ?この場には俺らしかいない
んだぞ?」
「あたし達は誰かに守られてたってことかい?」
「もしかしたら隠密スキルを持っている者がこの近くにいるのかもし
れません。スキルとは一人一個しか発動しないので、隠密スキル持
ちと、魔法師の二人以上がいる可能性があります」
ハニエルの言葉で、警戒して周りを伺ったが、何の気配もしなかった。




