56話 現場の状況
カイトは一人になると夜のうちに移動していた。
パーティーで動くよりは一人のが身が軽い。
その分、距離が稼げたのだった。
高速で移動できる風魔法を使うと一気に足が軽くなった。
飛ぶように軽やかに走ると、2日分の距離を一気に詰める事が
できたのだった。
どんな状況か?
そう考えるとゆっくりと覗き見た。
大きな魔法を展開しながら、聖女が必死になって防御シールド
を展開していた。
陰から眺めていると、勇者らしき青年が中心になって指示を出
しながらもう一人の筋肉質の女性と一緒に次々と下降してきた
ワンバーンを叩き落とすと、首を真っ二つに落としていた。
確かに、実力はあるようだった。
勇者の持っている切れ味のいい剣と格闘家ならではの拳につけた
ナックル。
後方で大火力の魔法を放つ女性はイーサと言われる天才魔法師な
のだろう。
メンデが言うには、最近の魔法師協会を騒がせるほどの実力の持
ち主だと言う。
勇者パーティーには珍しく聖女がついていると言っていた。
多分防御でていっぱいの彼女であろう。
杖も高価な物を持っていた。
多分、杖だけで火力の違いが出るのではないかと言うほど、高価
そうな装飾が施され、魔石が多くはまっていた。
聖女に何かあれば教会が黙っていない。
それほど、大切に扱われる職業なのだ。
もし、カイトの作った聖水ポーションの事が出回れば、一気に騒
ぎになるだろう。
リリー師匠に会うまでは、少しの体力怪我、などと気力、魔力が
回復する程度だったが、今作ったやつは腕すら生やすくらいの効
果があるのだ。
回復の泉とまではいかないが、それに近いものは作れるようにな
っていたのだった。
リリー師匠に叩き込まれた魔法や、剣術はどれも昔のリリーの仲
間だった骨から学んだ技術だった。
死んでも動かされる方は嫌になるかもしれないが、リリーは気に
も止めていなかった。
カイトを鍛えると満足そうに帰してくれた。
外で待ち伏せしていたジャイアントベアなど、小指を捻るくらい
に倒せるようになっていた事に驚きを隠せなかった。
スキルも絶対回避だけのはずで、自分を鑑定してもそれしか出て
こない。
それなのに、全属性の魔法が使えるようになっていた。
身体に刻まれた刻印は今では完全に治っていて目で見てもわから
ないほどだった。
だが、確実にカイトに刻まれているのだ。
どうしてリリー師匠が死なずに生き続けているのかが疑問だったが、
また、会いに行ってみようと考えていた。
そして、今は目の前の事をなんとかしてからだと息を整えると、思考
を回転させるのだった。
その間も、手渡されたアイテムを起動させる。
まだまだ殲滅までに時間がかかりそうだった。




