53話 お荷物なんて!
谷に着くには後2日はかかるだろう。
今日も安全な水辺付近でテントを張ると夜を過ごす事になった。
さっき狩った兎肉を煮込むとスープを作り固いパンをスライスし
て一緒につけて食べる。
温かい食事にありつけるだけでもマシな方なのだ。
「このスープ美味しいです」
ナナの食いつき具合が良かった。
「さっき取った香草で煮込んだんだ」
「カイトさんってなんでもできるんですね〜」
「まぁ〜前にいたパーティーでやってたからね……」
曖昧に誤魔化しながら食事の支度をすると、火を囲んで食事に
する。
「そう言えば、聞いてなかったが、カイトはどんなパーティー
にいたんだい?魔法も使えて、前衛もできて、食事や、魔石、
解体までこ なすってなかなか有能じゃないか〜?」
「そんな事ないよ……僕なんてお荷物だったし……」
「えぇーー!カイトさんがお荷物ですか!!」
ナナの声がさらに大きくなった。
「森では大声は危険だと教わらなかったかい?」
「ごめんなさい」
セオドアに叱責されると、ナナは声を潜めた。
それでも驚かずにはいられなかったらしい。
それからは、話題を変えたが、やっぱりナナは腑に落ちない
と言いたそうだった。
「ナナ、いいんだよ。僕の事は……。本当に弱かったんだ僕は」
「でも……そんな事は…だって、私はそんなカイトさんがいた
からこそ生きているんです」
「分かったから、僕は絶対回避というスキルを持ってるんだ」
「絶対回避…ですか?」
「あぁ、魔力が尽きるまで、回避し続けるというものなんだ。
戦いには全く役にたたないのも事実だから」
そう言うと、手元に短剣くらいの刃物が握られていた。
これはあの時手に入れた物だった。
魔力剣…魔力の量によって長さも形も変えられるダンジョン
ドロップ品だ。
研がなくても切れ味が変わらず不思議な物だった。
肉や、硬い皮膚もスパッと切り裂く。
「これって名刀って事ですか?」
「作って貰ったものじゃないんだ……」
その見せた短剣は近くにあった石に当てるとスパッと切って見せ
る。
「うそっ…石なんて切ったら刃こぼれしちゃいますよ!」
「そう思うでしょ?見てみる?」
火にかざして見たが、全く刃こぼれしていなかった。
石の断面も綺麗に切れている。
「どこを切ってもこうなるわけじゃないんだ。ここを切るってい
う場所があって、そこを切ることで硬いものも切れるんだ。も
ちろん硬い皮膚を持つ魔物も同じ原理なんだ」
「それは、すごい情報ですよ〜」
メンデがその話には食いついてきていた。
「メンデさんは解体する時にどこから解体を始めますか?」
「そうだな〜、俺はまず頭を落としてから〜腹に向かって切って
いくかな?」
「そうですよね?でも、腹から首にかけて切った事はありますか?」
「それは……まさか逆切る方が?」
「そうです。腹から上に切ると力を使わずに切れるんです。そして、
皮を剥がす時も同じです………」
延々と説明すると、メンデは手帳を出してメモり始めていた。
それにはセオドアが呆れたように見ていた。
バンとゲイルも真剣に聞いていた。
ナナはなぜが、嬉しそうに眺めてきていた。
「やっぱりカイトさんは凄い人ですよ〜!」
「知ってれば誰でも上手くいけますよ〜、それに力に過信しちゃいけ
ないです。いつでも警戒は怠らない事です。」
「そうだぜ?魔物より一番怖いのはなんだか知ってるかい?」
セオドアが笑いながらいうと、ナナは首を傾げた。
「魔物より怖いものですか?幽霊とかですか?」
その答えにセオドアはプッと笑い出した。メンデもそれに釣られるよ
うに笑うのだった。




