52話 子育て時期
朝早くに、足りないものを買い足すと、昼には出発した。
「向かう先はワイバーンの縄張りですね〜」
「あぁ、だが、別に戦うわけじゃない。どうしてもとなれば、
あんた達は逃げればいいよ。私がなんとかするよ?」
心配そうな顔をしているナナにセオドアが自信満々にいう。
セオドアとて、ワイバーンを相手に戦うのは無謀だろう。
空を飛ぶ魔物はどうしても戦いにくいものなのだ。
「大丈夫、みんながついてるから」
「はい。カイトさんがそう言ってくれるなら…」
「あはは……僕はそんな強くないんだけど……」
「そんな事ないです。」
ナナからの信頼は結構あるらしかった。
乗り合い馬車で、途中まで戻ると後は歩いて森の中、奥へと
進む事になった。
「それにしても、この辺結構戦闘の跡が絶えないですね〜」
メンデのいう通りだった。
木々が薙ぎ倒され、魔物の死骸がそのままにされている。
これでは、他の魔物が寄ってきてしまうではないか!
ナナが燃やしているが、キリがない。
奥に進んでも一向に魔物と遭遇しなかった。
「なんでワイバーンなんか討伐するのかね〜、あいつらは近づ
かなきゃ襲ってもこないし、よっぽど食料がなくならない限
りは森の奥から出てこないっていうのにさ〜」
セオドアの言う通りだった。
手を出さなきゃ、襲ってはこない。
逆にいえば、手を出せば執拗に襲ってくると言うわけだった。
もうじき、子育てのシーズンのせいか気が立っているだろう。
「時期も悪いですね〜」
「時期って?今は良くないのか?」
バンが不思議そうに聞くので、メンデが答えてくれた。
「もうすぐ子育てシーズンなんですよ。他の魔物でも、子育ての
時期はどうしても神経質になりますからね〜」
「なるほど……」
さっき死骸になっていた魔物も、近くに子供がいた。
やっぱり問答無用に狩りを楽しんでいるとしか思えなかった。
いくら冒険者といえど、この時期の魔物は巣穴に潜ってしまっ
た魔物まで追い回して退治する事はしない。
それに魔物も、人里へと降りてこないのだ。
それを知っているので、この時期は魔物狩りの依頼数が減る。
なのに、それをわざわざ倒しにいくなどもってのほかだった。
それを勇者自らするのだから、おかしいとしか思えない。
「どうしても名声が欲しいか、それともただの狂人かのどっちか
だろうね〜」
セオドアが嫌味でも言うように前を警戒しながら話す。
全員がそれには頷いたのだった。




