35話 変化
ロイエンの冒険者ギルドに寄っていくと、慌ただしくなっていた。
「何かあったんですか?」
ギルドの受付けのヘレニアに聞いてみる。
一体何があったのだろう。
「カイトさん?生きていたんですね、採取依頼を受けてからだいぶ
経つし、森の中でジャイアントベアが出たと報告があったので今
情報を回していたところですよー。襲われたのはまだ駆け出しの
冒険者らしくって、誰かが惹きつけてくれたと言っていたので、
心配していたんです」
「そうだったんですね〜」
「それってカイトさんでしょ?」
「あ……はははっ………」
「逃げ回って逃げ切ったという事ですか?」
「いえ……それなんですけど……これって買い取って貰えますか?」
鞄から出したジャイアントベアの毛皮と爪、魔石を並べた。
「その鞄ってまさか……」
「うん、秘密だよ?」
「分かりました。売却ですね、3時間ほどお待ち下さい。今ちょっと
立て込んでいまして……今日の朝にダンジョン『賢者の試練』のダ
ンジョンボスが倒されたと出たんです。それでドロップアイテムを
売りに来る人を隈なくチェックするようにと上から言われてるんで
す。」
「それってなんでですか?冒険者なら、自分がダンジョン攻略したっ
て自慢しそうですけど……」
「それがですね〜ここだけの話ですけど……。ロイエンのダンジョン
は他とは違ってドロップアイテムをギルドが取り締まっているんで
す。要は絶対にギルドが買い取っているという事なんです」
「?」
「普通のダンジョンより特殊で、すぐにダンジョンボスが明日にはリ
スポンスするんです。代わりに前よりも強くなって復活するんです。
だから、中ボス以外は倒すタイミングを見極めているんですが、稀
に倒す冒険者が出ると、アイテムを取り上げるわけにはいかないの
で、強制買取りとなるんです。」
「へ〜〜〜大変ですね。」
「そうなのよ〜」
なんだか大変な事になっていたらしい。
リリー師匠のおかげでドロップアイテムも差し出さずに済んだ。
それに、ボロボロの鞄をマジックバッグのように見せる事も出来たの
だった。
鞄から出すふりをして指輪の方から取り出す。
これで、狙われても鞄のみだった。
さっき出すところを数人の冒険者に見られている。
そして、カイトがFランクの冒険者だという事も知れ渡っている。
狙われないはずがないのだ。
自分より弱い者がいいものを持っていれば奪うのは弱肉少食の冒険者
ならではだった。
なので先に、大勢の前で見せておいて、鞄には必要最低限だけ入れて
それ以外は指輪の方に収納しておく。
あとはどこかで鞄をおいて少し離れれば…。
怪我もせず、荷物も奪われて、同情を集めた哀れな冒険者になるのだ。
後ろから跡をつけられて殺される心配もなくなる。
最初からジャイアントベアの毛皮を持って入ってくればいいのだろうが、
それをしてしまうと、悪目立ちしてしまう恐れがあるのだった。
今日はある程度お金が入ればそれでいい。
装備を揃えたらすぐに旅立つつもりでいたからだった。




