32話 いざ、脱出へ
水の中に転がるとたちどころに疲れも、傷も癒えていく。
バサァっと出ると水滴を滴らせながら上がると服はボロボロの
ままだが回復の度に肌はスベスベになっていく気がする。
気のせいだろうか?
いつしか、何度も傷つきながらも武器を持った敵相手への対応
も上手くいなせるようになったのだった。
ーまだまだ動きが雑じゃのう〜そんなんでは防御が疎かにな
っておるではないか?ー
「って、ちょっ………待ってって………うわぁ……」
ーほれほれ、人数増やすぞ?追加で2体じゃー
リリーのスパルタにはカイトでさえギリギリでいなしていた。
今は2対1のせいかすぐには倒しきれないが、なんとかかわしつつ
攻撃を加えている。
それにまた2体追加でとなると、いなしきれない。
攻撃をかわすとナイフに炎をエンチャントして一気に放つ。
鎧ごと切り裂く気で振り抜くと、その後に続く攻撃をよろめきな
がら避けたのだった。
短剣はボロボロになって、刃こぼれだけでは済まなかった。
魔力強化をかけたとしても、最後の剣士を倒したところでバキッ
と折れてしまったのだった。
「あ〜〜〜。唯一の武器だったのに………」
ー耐久度が無い物を使うからじゃよ。新しいのを使え…ほれっ…ー
「これは?」
リリーが放り投げると地面にサクッと刺さった。
長さは短剣よりは長いが、普通の剣よりは少し短く感じた。
ー私が昔使っていた剣じゃ。弟子じゃからな〜武器くらいくれて
やるわー
リリーとの修行の合間に鑑定も覚えていた。
身体に直接刻むせいか、その度に激痛を味わう事になった。
が、今のカイトの身体には傷ひとつない。
恐るべき癒しの泉と言いたいところだった。
身体を洗うにしても飲み水にしても、同じ水を使っているのだが、
少しすると自動で浄化されるようで、何の問題もなかった。
「リリー師匠。これって僕じゃ作れないんですか?」
ー何じゃ?もうできるじゃろ?ー
「えっ……」
言葉に戸惑うとリリーを見上げた。
当たり前だろうという顔で見下ろしてくるのを見ると本当にできる
気がしてきたのだった。
それからは一対一の剣術を習う事になった。
多人数での戦闘では魔法を使う事が多いが、狭い場所や、少ない人
数なら魔法よりも剣術のが有利だと教えられた。
元々、剣術の才能のないカイトが習って覚えられるものではないと
思っていたのだが、そうではないらしい。
魔法同様、スキルは才能ではなく後で追加されるものらしい。
どうやってやったのかは分からないが、リリー曰く、自分は天才じゃ
からな!と言っていた。
「はぁぁーーー!」
ガシャンッ
「まだまだぁーーー!」
ガキーンッ
「これで、どうだぁっぁーーー」
ガツーンッ…ドゴーンッ。
コロンッと転がる兜を拾い上げるとにこやかに剣士が手を叩いた。
いくらリリーによって姿を蘇られたとて、話す事はできない。
彼は過去の幻影なのだ。
では、リリーはどうなのだろう?
ちゃんと触れるし、食事だってとっている。
あらかた戦いに苦戦しなくなると、本番とばかりに奥のドアから
ダンジョンへと向かった。
奥は賢者の試練と呼ばれるダンジョンに繋がっている。
そこのボスを倒す事がここから出る課題でもあった。
「よーし、早く倒してここから出るぞ〜」
ーその粋じゃ。そう簡単にはいかんじゃろうがな〜、なんせ5人
パーティーで倒せるように設定しておるでな〜、頑張るんじゃ
よ〜ー
呑気に手を振ると送り出されたのだった。
ポケットには自作のポーションがある。
前に比べて、格段に増えた魔力によって回復力も数倍になったよ
うだった。
「よしっ……」
リリーに見送られながら気合を入れると前だけを見て進んで行っ
たのだった。




