31話 戦闘訓練
その日から、死ぬような特訓が始まったのだった。
カイトには攻撃魔法などの才能はない。
唯一使えるのは「絶対回避」と「ヒール」のみだった。
ー何じゃ、ヒールしか使えんのか?それじゃ〜つまらんのう。どれ
攻撃魔法を教え込んでやろう。もちろん剣も使えるようになって
もらわんとなぁ〜、教え甲斐があるわー
魔法の才能とは習って手に入るものではない。
神の神託で得られるものだと習ってきた。
なのに、この女性リリーは全く違ったのだった。
カイトの背中に指を当てると何か文字を刻み出した。
「い゛ッ………痛ッ、リリー痛い!皮膚が焼けてるっ!!」
ー当たり前じゃ。皮膚に直接焼き付けておるんじゃからな〜、この
くらい我慢せい!男じゃろ?それでもちんちん付いとるのか?ー
「そ……いたぁぃ……んな事言われても……いアァッ………アッっ……」
ー煩い奴じゃのう……ん?気絶しおったか……まぁ静かで良いわー
痛みからか意識が遠ざかっていった。
今書いたのは炎の印、そして次に書いたのは風の印、そして土の印、
水の印までを書き終えると水の中に放り投げたのだった。
息を吹き返したかのように溺れる寸前で目を覚ますと、ジタバタとも
がいていた。
「ゲホッ、ゴホッ………何するんですか!死ぬかと思ったじゃないで
すか〜」
ー今からが本番じゃ。覚悟するんじゃな!ー
「ま……まさか………」
あの大賢者の魔法を間近で見る事になるなど、思いもしなかった。
背中に刻み込まれた印が自然と魔力に反応する。
目の前で見せられる魔法を見ているだけで身体が理解していた。
「どうして………」
ーどうじゃ?カイト、出来そうに思えるじゃろ?今からやってみる
のじゃ……できぬとは言わせんぞ?ー
確かに身体というより、頭の中で理解してしまっていた。
魔力もある。
無くなれば目の前の水を飲めばすぐに回復する。
便利過ぎて怖いくらいだった。
さっき見せてもらった魔法は全部使う事ができた。
これは大賢者が背中に刻んだ印のおかげなのだろう。
「す……すごい……僕でも魔法が使えるなんて……」
ーそれだけじゃないぞ?今から剣術も習うんじゃよ、かつての私の
仲間の剣士を呼び出すからのうー
そう言うと、かつて大賢者と一緒に戦った剣士が姿を見せた。
もちろん姿は昔のままなので、街にある銅像のままの姿の戦士が現
れたのだった。
呆けているカイトにいきなり向かってくる。
ー何を油断しておるんじゃ?もうお主には魔法という武器があるじ
ゃろ?戦い方も分からぬか?ー
確かに言われた通りだった。
カイトの手には短剣一本ではあったが、攻撃手段はそれだけではな
い。
手のひらに魔力を集めて氷の礫を作る。
そして相手へと放った。
もちろんかわされるのは予想済みだった。
敵は生身の人間ではないのだ。
だからこそ、戦い方も変わってくる。
前に炎の壁を放つと一気に距離を取る。
地面を一気に凍らせていくと、足元も一緒に凍らせた。
そして目一杯の炎で溶かしにかかった。
ベコっと音がして目の前にいた剣士の鎧がひしゃげたのだった。
ーなんと………面白い事をするのう。生身じゃったら死んでおる
のうー
ギギギッと鎧が軋み出すと動きが鈍る。
カイトは自分に強化魔法をかけると一気に距離を詰めると蹴りとば
したのだった。
大きな音がして吹き飛ばすと転がっていく。
ーいい動きじゃ。さすが私の弟子じゃー
満足そうなリリーの声にカイトは魔力が尽きてふらふらと歩き、水
の中へとドボンッと転がったのだった。




