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最弱冒険者はパーティーから捨てられる  作者: 秋元智也
旅の始まり
30/163

29話 あなたは誰?

手前にあった光苔を少し取ると袋に入れて腰にぶら下げた。


奥の洞窟には光が全く届いていなかったからだ。

こんな場所で松明など持っていないので、代用にと持っていく

事にしたのだ。


「水は……入れるものも無いしなぁ〜……」


今飲んでおいて、途中で引き返せばいいかと考えると、先へと

進むことを選んだのだった。


今どのくらい歩いたのだろうか?

ずっとまっすぐな一本道なせいか、余計に不安になる。

魔物も一匹も見ていない。


ジャイアントベアも入り口から入ってもこなかった。

何も無いはずはないのだ。


「もうそろそろ、なにかあってもいいんだけどな〜」


そう言い始めた時だった。

やっと広い場所に出た。

そこには奥に祭壇があって一人の女性が括られている。


ボロボロの衣服に石の椅子に括り付けられている彼女はまるで

生贄にでもされているかのように動かなかった。


「すいませ〜ん、あの〜〜〜」


一応声をかけてみたが反応はなかった。

どうしようかと考えたが、カイトは前に進む事を決めた。

そして一歩前に出た瞬間、ピンッと何かに引っかかった気がし

た。

そしてボトッと何かが落ちたのだ。


「えっ………ッ!うわぁぁぁっーーー」


咄嗟に後ろに下がると落ちた物を見下ろした。

そこにはさっきまでついていた自分の左腕が転がっていたから

だった。


切れた感覚さえないほどに綺麗にスパッと落とされていた。

今はそんな事を見ている場合じゃないとすぐに止血するとゆっ

くりと手を伸ばして落ちた腕を拾い上げた。


「浄化、浄化、浄化………はぁ、はぁ、嘘だろ………何があった

 んだよ」


切り口に浄化をかけるとポーションを取り出す。

一本は一気に飲み干し、もう一本は腕にかける。


「ヒール、ヒール、ヒール………」


震える手で何度も初歩の回復をかける。

ポーションを飲んでいるので回復力も上がっている。

何度か重ねがけして、やっと腕が繋がった。


よく見ると周りには何本もの糸が張り巡らされていた。

それに触れたが為に切断されたと考えた方が正しいようだった。


「こんな細い糸で?……嘘だろ………」


近くの石を放り投げると前でスパスパッと切れて、奥に行く前

に細切れになってしまった。


「………これは……もっと前に出てたら、死んでたかも……」


誰がどうやってこんな場所に設置したのか?

前に見える祭壇にいる女性は何の為に据えられているのか?


しかし、今のカイトではこれ以上先に進むことは断念せざる

をえないように思えた。


帰ろうと引き返そうとすると一瞬魔力を感じた。

それは前に座っている女性からだった。


「まさか………生きている?のか?」


ー何じゃもう帰る気か?つまらんのうー


「この声は……頭の中に聞こえてる?」


ー聞こえておるのか?それは上々……そなたでええわ、

 にならんか?ー


何とも横暴な言い方に、カイトはそぉ〜と後ずさる。


ーまたんか!どーせ、ここからは出られんのじゃろ?入り口はさ

 っき落ちてきた穴ぞ?登れるのか?ー


「そんな……まさか?」


ーそのまさかじゃ。ここはダンジョン賢者の試練の最深部じゃ。

 ここまで来れたのはお主が初めてじゃよー


耳を疑うような言葉にカイトは驚きを隠せなかった。

ここには魔物一匹すらいなかった。

そして、ただの洞窟だったはずだ。


ダンジョンの入り口は別の場所にあって、ここではないからだった。


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