105話 戦う理由
一瞬の遅れが、全てを台無しにする。
それは、今勇者パーティーが自分の身を持って体験している事だった。
後ろに吹き飛んで行ったラキスは起きてこない。
気絶したのだろうか?
聖女イザベルは慌てるように駆け寄った。
そして、気絶していないことに安堵したが、それ以上にまずい事になっ
た。
今まで負けなしで、このパーティーの強みは格闘家のアンとラキスの
前衛にあった。
どちらもお互い同等の力を持ち、ラキスは勇者というスキルで魔物全般
を弱体化させ、自分の攻撃は何十倍にも跳ね上がるというものだった。
だが、今の相手は人間なのだ。
勇者のスキルの恩恵など発動しない。
ましてや、瞬時に吹き飛ばされたせいかアンのが恐怖に駆られていた。
勝てない相手というのは悟って仕舞えば、もう戦う気力さえもなくなっ
てしまうものだった。
ハニエルの両腕の骨を折るとその場に捨て置く。
この場面で1番危険なのは暗殺者だろう。
それはカイトにとっても同じ事だった。
カイトには毒は効かない。
だが、助けたエルフにはどうだろう?
これ以上犠牲を出さない為には、確実に動けなくするに限るのだった。
自前で作成したポーションを飲ませると意識を失わせたのだった。
「エルフの長老さん。どうしますか?」
「それは、お主が戦ってくれたおかげじゃて……わしが決めれる事では
なかろうて……」
「ここは貴方達の森でしょう?僕はただ通りかかっただけなので。この
大規模なオークの群れの指揮してたのは彼らです。それも勇者と聖女
までいる」
「これは国に抗議させてもらってもいいのか?」
「えぇ、もちろんですよ。ここに置いていけばいいですか?」
「あぁ、そうじゃのう。其奴は死んだのか?」
「いえ、暗殺者って事だったので、何か武器がないか身体検査するまで
眠っていてもらおうかと……」
ガクガクと震えるラキスの元へ行くと、リリーから学んだ魔法を行使し
た。
それは残酷な事だった。
リリーが出来る事はスキルを付与させて何個も使えるようにする事、そ
してそれが出来るという事は……その逆然り。
身体に触れて、その身体を巡るスキル。そして称号に干渉する。
一度無くしたものがどうなるかはわからないが、それでも今は…
鑑定をかけて称号部分に干渉したのだった。
しっかり消えているのを確認すると、横をみる。
震えるラキスに寄り添うようにいた聖女にも同様にかけた。
もう二度と同じことをしないように…と。
もちろん戦っていないアンの職業、格闘家も消し去っておいた。
これで人を殴っても、その拳に魔力は通らず、岩をも砕ける拳はただ痛
みを訴え非力な体力ばかに成り下がったのだった。
「いやぁ……来ないで、私はいやっ、あいつに脅されていたのよ?こん
な事したくてしたんじゃないわ!」
最後まで往生際が悪かったのはイーサだった。
カイトが何をして回っていたのかを、正確に把握していたからだった。
カイトが触れた人の鑑定をすると、魔力の欄に鍵がかけられ、スキル欄
は空っぽになっていたのだった。
「私は……まだ無くせないわ………お願いよ、見逃してっ!ね?」
「何をしたか見えているんですね?なら話は簡単じゃないですか〜、お
となしくしていて下さいよ。」
「いやよっ!私がここまでなるのにどれだけ苦労したか!」
「そうですね、苦労したのは理解できます。ですが、人としてやっては
いけない事に手を出したんです。その代償は支払うべきでしょう?」
最後まで泣き叫ぶ声を聞きながらイーサの魔力を封印し、スキルも消し
てしまったのだった。
教会へ寄付すれば、また付与されるだろう。
だが、それだけじゃ意味がない。
魔力に封印を施した。
これはカイトよりも凄腕でなければ解けない封印だった。




