98話 オークの侵攻
エルフの村では迎撃体制が整いつつあった。
先行隊として数人のエルフの戦士が先に偵察へと出ていた。
そこで見たものは、ありえないほどのオークの大群だった。
そもそもオークがここまで一糸乱れず来る事自体が異常だった。
「これは……ジェン、エリン、急いで族長に伝えに戻ってくれ」
「ハーベスとフルーマンはどうするの?」
「俺たちはこのまま偵察してから帰るから…」
「安心しろ、ハーベスと一緒に戻るから」
男性の二人のエルフがそこに残り、来たばかりの女性のエルフには
戻るように指示を出していた。
「分かったわ、絶対に突っ込んじゃダメよ!」
「私達が応援を連れてくるまで見つからないでね」
二人が森の中を器用に枝を蹴ってかけていく。
残された二人は顔を見合わせると、頷いた。
「悪いが、少し時間稼ぎをするか…」
「あぁ、援護は任せろ」
「そうだな、信用してるぞ」
「生きて帰ってあいつを悲しませる訳には行かないからな…」
さっきの女性を見送ると、前を向き直った。
弓をつがえると魔法をかける。
矢の周りを風が絡みつく。
「いくぞ…」
放った矢は先頭のオークに命中すると、周りを巻き込むように大きな
竜巻へと変わった。
そこに、追い討ちをかけるように炎を放つと、巻き込まれたオークを
焼き尽くす。
逃れようと逃げ出そうにも火に包まれて体力を奪われる。
「もういっちょ行くぜ!」
「あぁ……ん?」
もう一度矢をつがえた瞬間、何もない場所から氷の刃が飛んできたの
だった。
枝の上から矢をつがえていたエルフは一瞬にして直撃を喰らうとその
まま地面へと落下していった。
もう一人は気の後ろに身を隠すと、周りを警戒した。
「なんなんだ今のは……オークにあんな攻撃はできない……だったら…
おい、ハーベス、ハーベス聞こえるか?」
地面に叩きつけられたまま動かない仲間を呼ぶが、反応はなかった。
「チッ……」
舌打ちをするとそのまま踵を返して逃げ出していた。
姿が見えない敵には、対処のしようがない。
今は撤退するべきだと判断したのだろう。
それは間違ってはいなかった。
が、敵に背を見せる事がどれだけ危険かを、理解していなかった。
こっちからは見えなくても、敵からは丸見えだという事に考えが至ら
なかった。
上空に舞い上がると、枝を飛びつる瞬間。
まさに、その瞬間に足元から炎に包まれると一気に骨も残らぬ火力で
燃え上がると塵となったのだった。
唯一のエルフの戦士の証だけがその場に転がった。
燃える寸前、懐から転がり落ちたのだろう。
倒れたままのハーベスの上に降って落ちてきたのだった。
「なーんだ、つまんないの……もういいわ、蹂躙しちゃってよ」
つまらなそうに言うと、オークに命令した。
オークの群れはなんの疑いもなく、イーサの言葉通りに進んでいく。
そして、イーサは姿を再び消すと、その場から離れていったのだった。




