覇者との実力差
血が、腹から流れていた。俺の血だ。
先生は驚いて、俺から距離を取った。
「なぜ、避けなかった?」
先生は静かに口にする。
「全く、予想できませんでした。驚きのあまり、動けなくて…」
俺の顔が全く悔しがっていない事に先生はキレかけている。
「本当にお前死ぬぞ?」
「ここに来ると決めたときから覚悟は決めてます。殺したければ殺してください。」
蹴られる。ものすごい重さだ。
そこから徐々に視界が暗転していくのであった…
強くならなければ、守れない…人を守れない。 俺は、何も出来ずに、片目しかないその身体で冷たくなった彼女を抱き続けていた…
俺は目が覚めた。そこには病室が広がっていた。
そこに先生はいて、医務室の先生もいた。
「しばらくは痛むかもしれないけどこれは傷を瞬時に治してくれるから安心してね。」
と、医務室の先生が微笑む。
先生は、
「ついカッとなってしまった。申し訳ない。」
先生からの謝罪が来た。
「全然大丈夫です。ていうかなんで助けたんですか?」
「お前を殺したらお前は謎のまま。それとああやって命を投げだすのは基本もなってない。Dも納得した。」
「でも俺、あの状況からじゃなんも出来ませんでしたよ。」
「さて?どうだろうな。本気出してればどうにかなっていただろうにな」
先生はそう言って、微笑を浮かべる。
「まあ、買い被りすぎた。お前は評価がDの落ちこぼれだった。」
「まあ、そうっすね。」
俺は相槌を打つ。
「この学園の医療設備は最高だからもう治っただろう?」
「まだ痛みますけどね。なんとか治りました。」
「これは体力までさっさと回復してしまう。だからあえて怪我して回復しようとする輩も多いんだ。」
「何の話ですかそれ」
「脳筋の話だ。お前は脳筋ではなそそうだけどな」
「お前は少し、向上心を見せろ。他の奴らは絶対にC以上に上がろうと努力しまくってるぞ?流奈を少しは見習ってみろ。」
先生は流奈も高く評価しているようだった。
「アイツの、何を?」
「アイツは、他のSとは違う。この学園は生憎とSより上がないからSから落ちないように努力をする。だが流奈はSじゃ物足りないと言うように更に高みを目指す努力をしている。」
「あー成程…天才が努力したら誰も追いつけない奴っすね。」
「そうだ。お前はそこに追いつける実力を持っているだろう?最低クラスから見返そうとは思わないのか?」
「実力が足りないですね」
「そこまで言うなら俺が一から教育してやるよ。」
「勘弁してください」
そこから急に先生は話題を変えてきた。
「この世界、おかしいと思わないか?」
「何が?」
「能力が強ければ、実力があればなんでもしていい。そんな事にだ。実力があるからといって普通はなんでもしちゃいけないだろう。」
「世界がそういう考え方ですからね…」
「詳しく話すのは後にしよう。暇だったら俺の家に来い。」
そして、医務室から出て、歩いていた。
今日は試験もあり、辛かったが一つ嬉しい知らせが有った。
頭脳科とクラスは一緒なのだ。授業は普通の高校の座学は共に受ける。そこに、駒治琴乃は居た。
思っていたよりもこの学校は頭が良く、琴乃は一問しか間違えずに九十九点を取ったのに、この最底辺、Dクラスに行く事になってしまった。
思っていたよりもこの学園には強者が揃っているようだ。
と、考え事をしながら自分の寮へ行く。
「大丈夫か七瀬君…負けたんか」
俺が全く話していない事が悔しがっていると思ったようだ。
「ああ、大丈夫だ。」
寮の部屋は一人一つで広かった。
多分、二十畳ほどあるのではないだろうか。
そこには、スーツケースが置いて有った。この学園は受験にスーツケースを持ってくる。
なぜなら、死ぬか生きるかしかないからだ。帰るなんて事は出来ない。
今回の試験で言えば、食べられたら死ぬ。時間が過ぎたら置き去りにされる。
もし試験に合格したら帰る事は出来ない。
というか、受験した時点で帰る事は捨てなければならないのだ。
俺は早速荷ほどきを始めた。と言っても、服と愛用のぬいぐるみしか無いわけだが。
この島には商店街のような物が有る。金は少しもいらない。生徒と言うだけで全て無料で出来る。
時計を見ると既に六時を過ぎていたため、一旦飯を食べる事にした。
商店街は、とても広かった。多分数キロある。
俺は近くの店に入った。そこは、よく知っている店員の方がいた。
「お、蒼生君。よく来たね。私達はこの島でご飯を提供しないかって誘われたの。」
行きつけの店がここに出来たらしい。
「毎日ここに来るかもです。」
俺は半分笑いながら答える。
そしてまたいつもの料理を頼み、来たから食べ始める。
「アンタ、何でDなんかにいるのかしら?」
そこには、文武両道で天才とはやされている、谷川流奈が立っていた。
「クリアが遅かった。という結果を知っているだろう?」
俺は一切飯から目を離さずに食べながら話す。
「遭遇出来なかったわけ?」
適当に答えても質問の嵐が来るだろうと思い、一旦顔を上げて話し始めた。
「まあ、そんな所だ」
顔を上げたからといって真面目に答えるかは別問題。
「嘘ね。最後、木から降りてきて十秒足らずで必要分殺したじゃない」
流石、頭が切れる。伊達に天才をやっているわけではないようだ。
「お前の疑問も時が経てばいずれ分かるだろう。」
そして俺がまた食べ始めようとすると、
「探知系の能力じゃないのね。無能力。」
と、彼女は話しかけてくる。
「能力ってそんなにオープンにされてんのか」
俺は感心する。
「いえ、私の能力が知れ渡っているから。同じ条件にするためよ」
と、訂正が入る。
「アンタ、無能力な訳ないでしょう?何を隠しているの?」
と、一つの質問が来る。一番知りたいことか。だが俺にとって一番知られたくない事だ。
「別に何もねぇよ」
俺は、飯を食べ始める。
そこからも彼女は何個か質問したようだが食べるのに夢中で気が付かなかった…
その後、今日誘われた場所へ行くことにした。
この学校は教師も島に住んでいる。大体一軒家だ。
俺が尋ねた場所は、先生の家だった。
ノックしたらすぐ家に上げてもらえて、暇つぶしに来たと説明した。
「座れ。」
そこには豪邸のような物が広がっていた。
俺は椅子に座る。
「俺は小さい家が良いって言ったんだがな」
「覇者には全て差し上げたかったんじゃないですか?」
「んで、本題だ。なんで能力、実力主義が正しいと思われているかお前は?」
「この世界のお偉いさんがいつも、そう言っている。だからこその考えだと思います。」
「俺も概ね同意見だ。」
「じゃあ先生が言えば一瞬で変わるんじゃないですか?」
「それで人に言い聞かせたらこれもこの世界の考えを認めてる事になるだろう。」
「お前は向上心のかけらもない珍しい人間だ。」
「ディスってますよね」
「ああそうだ。実力がないと何もできない世界で実力を必要としていない。お前は俺の考えが分かるんじゃないかと思ったんだ。」
「そうですか…」
「お前は意外と頭が切れる。そこらの頭脳科より良いんじゃないか?」
「そんなこと知りませんよ…」
「てか考え方が世界の人間は俺と根本的に違う。考え方が似ているのはお前が始めてだ。」
と、数分議論を続けていたが、先生に電話が掛かってきたため、俺は変える事にした。
俺はそれから、部屋に戻って風呂に入った。
そして、俺はベッドに潜り込んで、寝た。
そういや、俺には新しく、友達が出来た。優奈以外に、時益光莉と、千草しろ(ちぐさしろ)という友達が出来た。二人とも戦闘科のため、結構仲良くしている。
翌日、Dのクラスに行くと、今日は全校集会が有るとの事。
クラス全てが集まるチャンスか。
そして外に集まった。皆、立って待っている。
「皆さん。おはようございます。貴方達の中には多種多様の力を持つ者がいます。そこで一つ。もし上のランクへ上がりたくなったらいくらでも上の者を殺してくださって構いません。」
とだけ言い、校舎に入っていった。
全校集会はこれだけで終わった。普通に考えれば上の者に勝てるわけがないのだ。
実力で、分けられているから…
…