第26話 落ち込む武路
モクルが「よし!」と気合いを入れて立ち上がる。
「オレと勝負しようぜ!」
「何の?」
「腕相撲はどうだ?」
「いいけど…あ、よく考えたら、俺の体って俺じゃない。雫さんのだ。大丈夫かな?」
「そんなもん、気合いでいけるだろ。」
「お、おう、そうだな。」
モクルは高さの丁度いい木箱を持ってきた。
2人は木箱を挟んで向かい合う。
「何賭ける?」
「お前が勝ったら、オレの時計貸してやる。」
「え?妖精って、時計持ってるの⁉︎」
「持ってちゃ悪いか。」
「悪くない、全然悪くないけど、妖精って、時間とか関係無い世界にいるんだと思ってた。」
「関係ないといえば、まあそんなに必要ないけどな。」
「ありがとう!助かるよ!」
「イヤイヤ、“勝ったら”の話だ。何でオレが負ける前提なんだ?」
「ごめん、つい。」
「武路が負けたら、武路だけ外で野宿だ。いいな。」
「オッケ!」
2人は木箱の上にヒジを乗せ、手を組んだ。
モクルが合図する。
「レディー・ゴー!」
2人同時にグッと力を入れる。
雫の身体の力はやっぱり弱い。すぐに倒されそうになり、手首だけでこらえる。
この体、やっぱり弱すぎる!これ、絶対ダメなやつ…と武路が諦めかけた時、
「武路!頑張れー!」
と雪夏の声がした。
モクルが不意をつかれて、力が緩んだ一瞬で形勢は逆転!
今度はモクルが手首で踏ん張る。
が、武路は思いっきり体重を力に乗せて、一気に押し切った。
「やったー!勝った!」
飛び跳ねて喜ぶ武路に雪夏が駆け寄る。
雪:「なぁに?2人で遊んでたの?外に出るなって言ってさ、私たちも混ぜてくれればいいじゃん!」
モクル:「遊んでたんじゃない。勝負してたんだ。」
雪:「何の?」
モクル:「これ。」
モクルはポケットから、チェーンが付いてて丸くて金色の、ボコボコとしたデザインの物を取り出す。
雪:「これ、なぁに?」
モクル「時計だよ、知らないの?」
雪:「だって、針も数字も無いよ。ただの大きなペンダントみたい。どうやったら時間分かるの?」
武:「これ、蓋が付いてるんだ。ここを開けたら…ほら、時計だろ?」
雪:「ほんとだー。武路は何でこれが時計だって知ってるの?」
武:「昔、じいちゃんがこんなの持ってた。なんだろ、格好良いと思ってたんだ。でも、人にあげたって言ってた。」
雪:「ふーん、コレだったりして?」
雪夏はチェーンを持って目の前にプランプランと揺らして見つめる。
モクル:「コレさ、人間の世界に行った時、おじいちゃんらしき人が小川に落っこちてたから、変身して助けてあげてさ、その時、他に何もないからって、お礼にコレくれたんだ。金で出来てて、売ればお金になるやつだって言って。」
武:「 ! 本当にじいちゃんのかも⁉︎
昔、ずぶ濡れで帰ってきて『川に落ちた』って言って、あと『優しい人に助けてもらった』っても言ってた!
すげえ!モクル、あの時はありがとう!」
モクル:「大したことしてない。でもすごい偶然だな!じいちゃん元気か?」
武:「めちゃくちゃ元気だよ!
終わったらちゃんと返すね、この時計。」
モクル:「失くすなよ、オレ気に入ってるんだから。」
武:「もちろん!」
武路はすっかり元気を取り戻した。




