第20話 石の秘密
雪夏は絶対お母さんを探しに行くと決心していたが、神様の“人間に戻れないかもしれない”という言葉で気持ちが揺らぐ。
「妖精として生きるのも悪くないよ。」
「雫さん!」
さっきは姿が見えなかったけど、やっぱり近くにはいたのだ。
雪夏は雫にも聞きたいことがいっぱいある。
「お母さんを連れて行ったのは雫さんなの?」
「記憶の映像見たよね?
私はネムがいなくなる後の手助けをしに行ってあげたんだよ。
ネムは約束通りに一年経ったから消えただけ。私が連れて行ったんじゃない。」
「お母さんはどこに行ってしまったんですか?何に生まれ変わったんですか?
居場所を教えてください!
雫さんの知ってること全部教えてください!」
「…ネムのことは、もし知ってたとしても教えられない。」
「お父さんが、お母さんがいなくなってからお母さんの夢を見たって言ってたけど、その時はまだお母さんのままどこかにいたんじゃないんですか?」
「夢に出たのは私。聖水のフリしてね。
あの時はもうすでにネムは消えてた。」
「このペンダントの石は何に使うんですか?」
「その石は、無くても別にいいんだけどね。私がお節介で、良かれと思って作った物だから。
聖水の涙と神様の記憶の水を固めたもので、私の妖力を少し加えてある。
強く願えば助けになる。
そして雪夏が妖精になって力をつければ、石の力も強くなる。
使い方は雪夏次第。石と意思疎通が出来るようになれば、石が教えてくれる。」
「俺は一緒に行けるんですか?」
静かに話を聞いていた武路が口を開く。
『雪夏は、ネムが人間の体を借りて産んでいる子でちゃんと人間なのだが、精神は妖精の資質を持つ。
10歳までなら自分の意思で、この先何として生きていくかを選ぶことができ、今回短期間だけ妖精となって妖精の谷へ行くということもできるが、武路は妖精になる資質が無いこともないようだが…、妖精になることができるほどてはない。だから残念だけど一緒には行けない。』
「雪夏のお母さんは人間の体を借りてたって…誰の体なんですか?」
『雪夏と同じトガーの身体だ。昔10歳になる前に、妖精になることを選んだ子がいて、その子の身体を谷で保管していた。
保管している間は10年に1歳成長するが、身体が50歳となったら消滅する。
保管されてる身体は選ばれた者しか入れない。
そして、他の者と交わった身体は10年の待機の後に消滅する。』
「雪夏も戻れなかったらそうなるんですね。」
『そうだね。
基本的には自分の意思で選ぶのだけど、そうでない場合もある。
赤ちゃんであろうが、悪意のある者に身体を乗っ取られることもある。
雪夏はトガーだから、どんな妖精でも簡単に利用できる。だから身体を欲しがる者がいれば襲われる可能性もあったが、それを雫が結界を張って守っていた。
それにこの山は、木守がきちんと環境を整備してくれていたおかげで、悪意のある者が生まれなかったんだ。
私も力の届く範囲に誰も侵入してこないよう、微力ながら守ってきた。
ただ、谷にはいろんな妖精がいる。
雪夏を自分の中へ取り込んで、雪夏と融合し、それから体も乗っ取ろうとする者がいるかもしれない。
雪夏が取り込まれてしまった場合は、もう誰も、私でも、体は守ってあげられない。』
「トガーじゃなければ、身体は乗っ取られないんですか?」
『そうとも言えないが、スキルのすごく高い大妖精か、本人の精神が何かしらの事情で身体から出てしまってる場合は未熟な者でも普通の人間に入れることもある。
ただ、普通の人間の場合、適合しなければ妖精は体の中に留まることができなくて出てしまうのだ。トガーの場合は妖精なら誰とでも適合する。そして妖力も維持できる。妖精にとってはとても居心地がいいものなのだ。』
「谷で身体を保管してるなら、その妖精になってしまった本人だって、また元に戻れるんじゃないですか?」
『それはできない。
本人だけは、元の身体に戻れない。大妖精になっても無理なことだ。』
「妖精になってる間、雪夏の身体はどうなりますか?」
『私のこの木の中に取り込んで、戻ってくるまで守っているよ。
ただし、精神が取り込まれてしまった場合は、その者に引き渡すことにはなるが。』
ー雪夏は大きな決断に迫られた。




