第19話 お母さんの秘密
お母さんが消えてしばらくして、お父さんとじいちゃんとばあちゃんが同じタイミングで帰ってくる。
「今日、早く帰っていいって言われたんだ。雪夏は元気かな?今朝ぶりだからねー。」
呑気にばあちゃんと話しながら家の中に入る。
と、赤ちゃんの雪夏がすごく泣いているのに気付いた。3人は急いで部屋の様子を見に行く。
そこにお母さんはいない。皆で家中を探す。家の外も探すが、どこにもいないー。
ここで頭の中の映像は終了した。
雪夏は涙が止まらない。
一度にたくさんの情報を知り、頭の中の整理がつかないが、お母さんはお母さんの意思で私を置いていったのではなかったんだということは分かった。
「お母さんは妖精なんですか?」
神様に尋ねる。
『そうなんだ。
お母さんは、この近くにある、ネムの木から生まれた妖精なんだよ。』
「あ、だから雫さんはお母さんのことを“ネム”って呼んだんですね。」
『私が話すことではないかもしれないが、今雪夏に話しておこうと思う。
ネムの木だったお母さんは昔、君のお父さんに恋をしたんだよ。
お父さんが10歳になって、君のおじいさんと一緒にしばらくずっとこの山の整備を手伝いに来てくれたんだ。
お父さんは、ネムの木がなぜか気に入ったみたいでね、来る度に木を優しく撫でて話かけていたんだ。
ネムの木もそれが嬉しくて、すごく楽しみに待ってたんだけど、お父さんの学校でのスポーツ活動が忙しくなったみたいで、ここに来れなくなったんだ。
ネムの木はすごく寂しがってね、その想いの強さから妖精のネムが生まれたんだ。
ただ、妖精になったからといって、すぐに人間の世界へ会いに行かせるわけにはいかない。
妖精の世界には暗黙のルールがあって、多くの人間に妖精だと知られてはいけないことになっている。
何故かというと、妖精の世界が変わってしまう恐れがあるからね。
多くの人間に知られてしまった妖精は消滅してしまうんだ。
そうならないように、人間の世界のいろいろや、妖精としてのスキルを学ばなくてはならないし、簡単に人間のいる場所へ行くことは許されない。
10年目のご褒美に一度、君のお父さんに会いに行って、ますます想いは深くなった。
それから更に10年、いろんなところで真面目に取り組んで、会いに行くのも我慢して、ようやく人間の世界へ行くことができる権利を得た。妖精ではなく、人間としてね。
ただ、記憶の映像で見た通り、約束の期間は一年間。
本来なら、また妖精のネムに戻るだけだったんだが、君のお母さんになってしまったのでそれができなくなった。
それはこの世界のルールを破ったことになるから、罰を受けたということだ。
ただ、間違って欲しくないのだが、雪夏のせいでこうなったわけではない。
“お母さん”になったことが悪いのではなく、あくまでも、結果そうなってしまったということだからね。』
「私がお母さんを見つけて、体と魂をくっつけたら、家に帰って来られるんですか?」
『そうだよ。でも、簡単なことじゃない。悪意を持つ者が君を傷つけるかもしれない。
安全は保障できないよ。
それから、体が保管されている妖精の谷へ行くには、妖精にならないといけない。
妖精になれるのは10歳まで。その後人間に戻れるのも同じく10歳までだ。』
「もし、それまでに人間に戻れなかったらどうなりますか?」
『妖精のまま生きることになる。人間に戻るのはかなり難しいだろう。』




