第18話 お母さんの記憶③
赤ちゃんの雪夏がスヤスヤと眠っていて、側でお母さんも眠っている。
そこへ、鳥みたいなチョウチョみたいな生き物が窓から入ってくる。
窓は閉まっているが、スッとすり抜けた。
妖精だ…!
姿をよく見ると、見たことのある顔…。
あ!雫さん⁉︎
雪夏と武路は驚いて目を開けた。
雫さんはどこかに隠れているのか、姿が見えない。
頭の中の映像が進むので、また目をつむって集中する。
「ネム、起きて。」
お母さんが目を覚ます。
「誰?」
ちょっと寝ぼけた感じだ。
「ネムが人間になった時、妖精の記憶を消して欲しいって言ったから、覚えてないか。
私は雫だよ。
約束の時が来たから、私がこの先のネムを想ってここへ来た。
まずは記憶を戻すね。」
雫はお母さんの周りを飛んで、キラキラとした光をかけた。
その瞬間、お母さんはしっかり目を覚まし、全てを思い出した。
「嫌!帰りたくない!このままここで、この子と一緒に暮らしたい!
絶対嫌!」
「“嫌”と言われても、一年間という約束だから。
約束は絶対守らないといけない。守らなかったら、ネムはもちろん、この子もこの家族も罰として皆消されてしまうよ。」
「くっ…。」
お母さんは、すごく苦悶の表情をしてる。
「時間が無い。
この子を想って、泣け!早く!」
お母さんが涙を流すと、雫はまたクルクルと回り、キラキラとした光を出して涙を石に変えた。
「その石をその子に持たせておけ。」
「何?」
「神様からの言葉を伝える。
『ネムは、禁忌を犯した。人間になる時、一年間だけということと、他の人間と交わらないことという2つの約束をした。でもネムはこの子の父親と交わった。妖精の記憶を消していたので、忘れてしまったのであろうが、それは許されない。』
神様お温情で約束の1年間はネムの思う通りにさせてあげようと、ネムのことを守ってくださっていたけど、
『もうすぐ今入っているこの体は妖精の谷へ戻り、ネムの記憶は消えて、ネム自身は別の何かに変わってしまう。
別の何かに変わってから10年の間に、“トガー”つまり、科の証であるこの子が、ネムが今入っているこの体と、生まれ変わるネムの魂を見つけて融合できれば、罪は許されここにまた戻ることができるだろう。
出来なければ、この体は消滅し、ネムの記憶も完全に戻らなくなる。』
とのことだよ。
この涙の石は、ネムが戻るために助けるものとなるようにまじないをかけたものだ。」
お母さんは、コクッと頷いて、涙の石を雪夏の小さな手に乗せる。
赤ちゃんの雪夏はそれをぎゅっと握りしめた。
「この子は悪意を持つ者に狙われるかもしれないから、この家に強い結界を張っておくよ。
安心して、この子は守ってあげる。
ついでにこの石にも悪除けの結界を付けておくね。」
「ありがとう。」
「…この子が、ネムのこと探してくれるといいな。」
「ううん…探さなくていい。この涙の石が雪夏を守ってくれるだけでいい。
危ないことは絶対しないで、穏やかに幸せになって欲しい。
それ以上は何も望まない。」
「時間だ…。」
お母さんは赤ちゃんの雪夏をぎゅっと抱きしめた。
お母さんの体がキラキラと光に変わり、そして消えてしまった。




