第15話 記憶の水
ワイワイと皆で話ながら歩いていると、あっという間にご神木まで辿り着いた。
道のりは単純で、ほとんど道なりにまっすぐ来ただけだ。
歩いた道の突き当たりに着いた時、突然視界が開けて、大きな水溜まりがあり、その真ん中に大きな檜の木が一本立っている。
水溜まりの水は澄んでいて清々しく、穏やかな光が差してとても綺麗な場所だ。
まだ10歳になってない2人だが、その木がご神木だということはすぐ分かった。
『雪夏、武路、よく来たね。』
頭の中に穏やかな声が聞こえてきた。
風邪がふわっと吹いて、ご神木の枝や葉っぱがサワサワと揺れて音を立てる。
声が耳から聞こえるのではなく、頭の中に聞こえる感じ。天青が言ってた通りだと思った。
神木:『10歳になるまで、ここへ来てはダメだと言われているのに、自分たちだけで決断し、ここまで来るのにさぞ勇気がいったことだろうね。
先に伝えておくが、大人の言うことには理由がある。昔から伝えられていることも、普段の教えでもね。だからこれからはちゃんと大人の言うことは聞くんだよ。
ただ、今回だけは事情があるんだ。
今、天青や雫の姿が見えているだろうけど、10歳になると全くではないけど見えなくなる。私の声も同じだ。
今からここで起こるすべてのことが10歳過ぎると不可能になるんだよ。』
「なぜ10歳なんですか?」
雪夏が尋ねる。
神木:『10歳は成長の分岐点でね、体も心も素直な幼児から思春期の大人へと変化する節目なんだ。昨日の9歳と今日の10歳に違いを感じることはないだろうけど、ここの世界では全然違うんだよ。』
雪夏も武路もちょっと難しいと思ったが、なんとなく理解した。
神木:『足が濡れてしまうかもしれないが、こちらまで来られるかな?』
雪夏と武路は顔を見合わせて軽く頷く。
靴と靴下を脱いで、ズボンの裾を捲った。
恐る恐る水の中へ足を入れ、安全を確認しながらそっと歩いて木の側へ行く。
木の近くまで行くと、その周りは盛り上がっていて水はない。
神木:『ありがとう。
雪夏のお母さんだけどね、言葉で説明しても理解が難しいから、頭に映像で見せてあげよう。
私の小さな方の洞の中の水を少し汲んで飲みなさい。それは記憶の水だ。
雪夏のお腹にいるときの記憶や生まれてから見たことの中で、知りたい記憶を思い出せるだろう。
それは必ずしも見たものだけではなく、雪夏の体全体の細胞の記憶から映像を作りあげて、客観的な角度から見られるものであろう。』
雪夏:「洞って何ですか?」
神木:『穴というか、凹みと言えば分かるかな?』
雪夏:「これですか?」
雪夏は少し上の枝の方にある小さな穴を指差す。
神木:『それだよ。』
雪夏がどうやってこの水を飲もうか迷っていると、天青が水をすくいやすそうな葉っぱを持ってきてくれた。
雪夏が洞の水をすくって飲もうとすると、
「俺はどうしたら…?」
と武路がつぶやいた。
神木:『雪夏が武路にも知ってほしいと思うなら、手を繋いでいるといい。同じ記憶の映像が頭に浮かぶだろう。もし知られたくないなら、ただ側にいてあげればいい。
武路は男の子だからね、ちょっと刺激の強そうな場面の時は、私の力でぼかしてあげよう。』
雪夏は手を武路に差し出した。
雪夏:「一緒に。」
武路は雪夏の手を強く握った。
「痛いよ。」
と、雪夏が言って初めて、武路は緊張してつい力が入ったことに気付いた。




