第12話 武路の母さんの話
雪夏のお母さんの話は続く。
「おばさんは何でお母さんが妖精に連れて行かれたって思ったんですか?」
「実は、この山巻田の家に伝わる話があるの。」
そう言って、武路のお母さんは昔々の話をしてくれた。
すごく昔、山巻田のご先祖さまで、雪夏の家の山奥に行って帰ってこなくなった人がいるらしい。家族は方々探しまわったけど、手掛かりすら見つけることが出来なかった。
ある日、山巻田の家に妖精がやってきて「自分は妖精として生きていくから忘れて欲しい」と言って消えたそうだ。
山巻田のご先祖さまは、妖精がいると噂になってる雪夏の家の山へ何度も行ったけど、迷いに迷ってとうとうその場所へ辿り着くことさえ出来なかったそうだ。
雪夏のご先祖さまにも案内してもらっていたけど、その時ばかりは不思議なことに、何度も同じ場所へ戻ってきてしまったらしい。
「雪夏ちゃんのお母さんも、もしかして妖精と関係あるのかな?って、フッと思ったの。最初にお母さんが発見された場所も場所だし。
だから夫と、妖精に連れて行かれたんじゃないかって話してて。
でも、武路がその話を聞いてたとは思わなかったわ。」
武路はてへへといった顔をした。
「ご先祖さまは、10歳になってない人だったんですか?」
と雪夏が聞く。
「んー、何歳だったのかまでは知らないの。私がお嫁に来た時、武路のひいおばあちゃんにあたる人に聞いた話で、そのひいおばあちゃんも今はもう亡くなってていないから。
あと、この山巻田の親戚の人でも、詳しく知ってる人はいなさそう。」
「そうですか。」
「雪夏ちゃんのお母さんね、あなたが生まれるの、すごくすごく楽しみにしてたの。だから、あなたを置いていきたくて置いていったんじゃないと思う、絶対。
でもね、今の話は昔話で、伝説みたいなものだから、おばさんが話した妖精の話は、お母さんのとは違うからね。くれぐれもお母さんを探しに勝手に山の奥に入っちゃダメだよ。」
「分かりました。ありがとうございました。」
雪夏は《《勝手に山の中へ入る》》という図星を突かれていたが、悟られないように装い、丁寧にお礼を言って家に帰った。
自分の部屋のベッドに転がり、武路のお母さんの話を思い出す。行方不明になって妖精になった人がいるっていうのは本当の話だったんだ…そう思うと怖くなる。
「やっぱり行くのやめようかな…。」
雪夏は悩んだ。
何日か経った帰り道、また人気のいない山道の所でスズメが一羽飛んで来た。天青だ。
「雪夏、お話しよ。オレ、暇。」
「あれ?天青…だよね?天青って、“オレ”って言ってたっけ?“ボク”じゃなかった?」
「最近“オレ”に変えてみた。こっちの方がイケてるっしょ。」
「そうなんだ。よく分かんないけどまあ、いいや。何の話する?」
「この前、一緒に帰ってた男の子って、雪夏の好きな人?」
「この前?武路のことかな?ただの幼馴染だよ。
あ、違うからね!この前も好きな人いないって言ったよ。」
「なんだ、つまんない。」
「ん?何か今日の天青、やっぱり変?」
「そうかな?いつもと変わらないよ。
あ、それより今度の土曜日、あの場所に来るんだよね?」
「それが…迷ってる。なんかやっぱり怖くなっちゃって。
妖精に変えられちゃって、もうウチに帰れなくなるんじゃないかと思って…。」
「大丈夫だよ!そんな心配無い無い。ちゃんと帰れるから。オレもいるし。
じゃあ待ってるからね。」
天青は、一方的に話すだけ話してさっさと山へ去って行った。
暇って言ってた割に、帰るの早いんだ。何しに来たのやらと、雪夏はあきれた。




