第1話 穏やかな山の上で
春光と言うのだろう。
ポカポカと暖かい、柔らかい日差しの中、雪夏はばあちゃんと一緒に、家のすぐ近くの、山の上の畑にいる。
風が吹くとまだ少し肌寒いが、雪夏はこの場所で、日向ぼっこしながらボーっとするのが大好きだ。
ばあちゃんは雑草を取り、冬に眠っていた畑の土を起こし、肥料を混ぜ、畝を作っていく。
何年も何十年も、ばあちゃんは畑を作ってきたのだろう。腰が曲がってきても鍬を振る姿は力強くて格好が良い。
「雪夏、もうそろそろ10歳なんやから、見てるだけじゃなぁて一緒に手伝ってくれん?ばあちゃん年取ってしまって、だんだん力が無うなってきたわ。」
ばあちゃんは珍しく、今まで言ったことないような弱音を吐いてるように聞こえる。
「えー…やだ!まだ10歳になってないもん。見てるだけがいい!」
雪夏は、歳をとっても尚、格好がいいと思っているばあちゃんが、だんだん力がなくなってきたと言った事がショックだった。
そろそろ自分もばあちゃんの力仕事のお手伝いをしようかなと思ってきたところだったが、その言葉を聞いて逆に手伝いたくないと思った。
ばあちゃんはまだまだ元気だ。年取るなんて、そんなことない。あんなに力強く鍬を打ってるのに…。
天邪鬼も少し入っているけど、弱音を吐くばあちゃんは、ばあちゃんらしくなくて嫌だ。
「私、ちょっとその辺散歩してくるね。」
雪夏はモヤモヤした気持ちを切り替えようと思い、山の中へ入って行った。
ばあちゃんはちょっと残念そうにため息をついたが、やれやれといった感じで言った。
「ロープの先には絶対行ったらダメやよ。それと、じいちゃんが仕掛けたワナにも近づかないこと。何か捕まってても近寄ったらダメやよ。野生の動物は危険やからね。」
「分かってるよ!」
ばあちゃんのこのセリフは、小さい頃からずっと言われてるから耳タコだ。
山の中は、じいちゃんとばあちゃんがちゃんが手入れしているので、歩きやすくなっている。
山の中でも雪夏にとっては庭の内だ。慣れたもので、多少の崖でもスイスイ登る。
せっかくだからばあちゃんの好きな山菜でも採ろうかな。
ゼンマイは…もう遅いか。うん、やっぱり無いなぁ。ワラビならあるけど、なんか細いのばっか。でもまあ、これくらいのが食べやすいか。
ーなんて、山ならではの楽しみもある。
雪夏はついつい山菜探しに夢中になっていた。
そよそよと柔らかい風が吹いて、草木が揺れる。
雪夏はこの穏やかな空間が大好きだ。草も木も“心地良い”と喜んでいるような気がする。
山育ちだからだろうか、なんとなくこの自然たちと心が繋がってるみたいな感覚がある。
澄んだ空気に当たって心が落ち着いたところで、さっきばあちゃんに、モヤモヤしてしまった自分を反省した。