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あとがき
あの日から幾年が経ったであろうか。私は多くを失った。光子は多くを残していった。未だにどこかで光子に見られている気がし、夜もまともに眠れない日々が続いた。顔の左側の傷跡を見る度、光子の事を思い出す。光子は死して尚、私に取り付いているのだ。
あれから柚子とも関係を持ったが、どうしても桜子の事が忘れられず、私は自ら女性を遠ざけて来た。若き日の思い出と言うものは、容易に忘れられるものではない。
夏が来る度に、あの悍ましい事件を思い出す。私は一生忘れる事が出来ないだろう。人の思いと言うものは、余りにも重すぎる。私には、到底耐えられるものではない。
私はその後、寺へと入り僧へとなった。修行をしている間だけ、光子の事を忘れる事が出来た。
私に一生ものの傷跡を残した光子。何故私だったのか、それは未だに分からない。只一つだけ言える事がある。恋煩いをこじらすと、ろくな事にならないと言う事だ。私は生涯、独り身でいるだろう。それは私自身の為。そして、桜子の為に。
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