3話
俊介は森の影で石を静かに握り締めていた。
僕の合図を待っている。
━━━━隆が崖になかなか辿りつかない。
僕は唇を噛み締めていた。
龍也は、こんな時でも目を輝かせ嬉しそうに前を見ている。
時折、羨ましく感じる。
美麗は貝殻の入れ物の蓋を開けて矢に狩用の薬を塗っている。普段は狩猟で用いる痺れ薬で、イノシシでも当たればニ十、三十歩くらい歩くうちに倒れる。
僕は、これだけ万全に整えておけば大丈夫だと言い聞かせていた。
しかし、その薬が塗られた矢先の曇りが頭から離れなかった。
ようやく、隆が崖の上に着いた。
洞窟の方を見ると、二人は中に入っていた。一人は入り口で見張りをしている。小さい男だ。
今しかないと僕は思い、すぐに俊介に手で合図を送った。
俊介は石を矢のように、小さい男の頭を狙い、投げつけた。
「っつ。痛えぇぇ。誰だあ、投げつけたやつは。」
更にもう一度頭を狙った。
「いてて、こいつ!!」
小さい男は噴火した岩石のような顔をして俊介に飛んで行った。
即座に俊介は、森の方へと走り出していき、
小さい男も森を燃やす勢いで飛び込んで行った。
洞窟の方から、その騒ぎを聞いた他の二人が出てきた。
中肉中背の男があくびのような声をあげている。
「なんだぁ〜。ハンのやつ見張りを忘れて遊びに行ってるじゃね〜か。後でしっかりと酒を奢らせるか・・・」
話終わるよりも先に、隆が崖から投げた大きな石が、中肉中背の男の背中を歪ませた。
男は一瞬にして地面に埋まった。
痩せた髭の男は、何が起こったか理解出来ず立っていた。
茂みから雷の如く走り出した龍也は、痩せた髭の男と
間合いを一瞬にして詰めて鞘から刀を抜いた。
龍也は、男の胴を狙って切り抜けた。
しかし、刀は避けられてしまった。
透かさず龍也は、振り返り男の足に目掛けて振り抜いた。
痩せた髭の男は鞘から刀を出し、龍也の刀を下向きにして受けとめ、すぐに中段に刀を構えて横一文字に剣を払った。
ザクッ
痩せた髭の男の腕には、美麗の矢が刺さっていた。
一瞬ふらついた男に龍也は、刀を振り下ろし男の腿を切り裂いた。
「いてぇー、がああぁぁ」
痩せた髪の男は泣き叫んでいたが、薬のせいかしばらくすると静かになっていた。
龍也の刃先は朱に染まり、羽が小刻みに揺れている。
僕は今まで龍也のそんな姿を見た事がなかったので、少し驚いた。だが、まだ終わってはいない。皆に隠れるように叫び、俊介が入った森の方向に目を傾けていた。