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箱の中のダイヤモンド  作者: たきかわ由里
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2-5


 入口ののれんとガラス戸が示すように、おしゃれでもない、昔ながらの個人経営の居酒屋だ。店内の各所には、オススメメニューやビールの広告が掲示されている。ところどころに飾られているドラゴンズグッズからは、ユウセイがドラゴンズファンであることを伺い知れる。

「しおんちゃん、今度焼肉行かない?」

「焼肉?」

「うん。美味しい店見つけたんだ。リーズナブルだし」

 唐突ではあるけれども、無難な話題だ。

「いいよぉ。どこ?」

「金山。駅近くだから、ちゃんと呑めるよ」

「いいね。行こ」

 それなら、しおんの職場の近くだ。仕事帰りでも行ける。

「奢るからさ」

「いいよそんなの」

「まあまあ、いいじゃん、たまにはさ?」

 たまにはどころか、彼女に会うのは8ヶ月ぶりだし、最後に一緒に食事をしたのは、しおんが20歳になるかならないかの頃だ。

 それでも、一応付き合っているという形に見せかけないといけない。

「じゃ、たまにはいいかなぁ」

 ちょっとぎこちない返答だったかも知れない。裕奈は何でもないように微笑んで、タバコをくわえる。

「賑わってるね。いつもこんな感じ?」

「うん、大体こんな感じ。ドラゴンズが勝った日はもっと入るけどね」

「そうなんだ」

「ドラゴンズが勝った日は生中100円だから。優勝した日には全品無料かもね!」

「それは与田さんに頑張ってもらわなきゃなぁ」

 中日ドラゴンズのお膝元であるここ名古屋では、ドラゴンズの戦績でサービスをする飲食店は珍しくない。

「負けた日は、店内の空気が荒むんだけど」

「気を付けよぉ」

 熱いファンが集まるなら、そんなこともあるだろう。

 店内のテレビでは何でもないテレビ番組が流れているし、サンダー&ライトニングとは違って、客にバンドマンがいる様子もない。知らずに訪れた者は、この店主がメジャーデビュー寸前まで登ったヴォーカリストだとは思わないだろう。

「今日冷えたね」

「そうだねぇ。マフラー出しちゃった」

「もういるよね。こないだ東京行った時は、そんなでもなかったんだけど」

「東京?」

「ん? まあ、野暮用でね」

 ここはあまりつっこまないほうが良さそうだ。裕奈の目が泳いでいる。

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