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「ほんとだ、美味しい」
「チャーシュー丼もあるけど、まだしおんちゃん、シメに行く時間じゃないでしょ」
「当たり。あと何か、つまめるものでオススメ下さい」
「嬉しいね。じゃ、きのこバター」
「ちょっとユウセイさんさぁ。どんだけきのこバター推すの」
呆れたような裕奈の言葉に、ユウセイは軽く返す
「いや絶対美味いし」
「もうちょっとね、自分の腕をアピールした方がいいよ?」
「俺のきのこバターはよそより美味いぜ」
「きのこバターはどこまで行ってもきのこバターなの!」
昔、裕奈に連れていかれたヴェノムストライクの打ち上げでも、こんな息の合った会話が繰り広げられていた、と懐かしく思う。
気が付いたら裕奈とユウセイの姿はなく、一人ぽつんと居酒屋に取り残されていたのだが。
それも今となっては懐かしい思い出だ。
「じゃ、回鍋肉はどうよ」
「そうそう、そういうの!」
「きのこバターとそんな変わんねぇぞ?」
「あ、じゃ、両方下さい」
「ありがとうございやす! ちょっと待ってくれな」
ユウセイはいそいそと冷蔵庫に向かう。
隣の裕奈を見ると、その背中を目で追っている。それだけでわかる。裕奈はユウセイのことをまだ想っている。
でも、互いに独身ならば何も問題はないのではないか。何が障害で、こんなふうにして彼と距離を置かなければならないのだろうか。
そうは思っても、この場は裕奈のペースに合わせるしかない。積もる話をしようにも、彼氏という設定上、最近どうしているのかとは聞けない。
裕奈が、ふとしおんを振り向く。
「ごめん、指輪はずしといてもらえない?」
小声でしおんに囁く。確かに、しおんの指輪は結婚指輪然としているし、裕奈がつけていないのでは齟齬が起きる。
「あ、うん」
左手の薬指から指輪を抜き取ってネックレスに通し、服の中にしまう。
裕奈は手を合わせて、少しだけ頭を下げる。
ここで話していい話題は何だろう。それがまったく思いつかず、何となく店内に目線を泳がせる。