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箱の中のダイヤモンド  作者: たきかわ由里
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1-3


「このどこでだよ!」

 和馬はフロアを指さして笑う。

「かまいたちみたいに、ドラムセット前に出すだけなら出来るかもよ?」

 ヴィジュアル系初期の関西のバンド、かまいたちはドラムセットが前後に移動する。動力はローディーというシンプルな機構だ。

「かまいたち? お笑いのか?」

「あ、和馬さんは知らないかぁ。今度見せてあげるね。面白いから」

 しおんが高校生の頃に解散してしまったバンドだが、YouTubeを探せば動画くらいあるだろう。

 その頃のことをふと懐かしく思い出す。しおんが、当時はヴィジュアル系専門ライブハウスだったジーラスに通い始めたのは、その頃だった。

 そこでたくさんの音楽と出会ったし、いくつかの恋もしたし、友人もたくさん出来た。

 ジーラス時代の女友達は、年齢を重ねる毎に連絡が途絶えて行った。それはごく当たり前で、それぞれの人生がある。結婚したり、就職、進学したりと生活環境が変わっていく10代から20代前半。通うバンドが変わってジーラスに来なくなることも多い。しおんも最終的にはジーラス以外の会場でライブをするバンドに主軸が変わった。

 しかし、今年の3月に開催されたジーラスバンドの再結成イベントで、その頃グループを形成していた女友達と再会することが出来た。20年近い年月の隔たりを感じないくらいに、自然に再会と互いの健在を喜ぶことが出来た。

 その時に連絡先は交換し合って、時折メッセージをやり取りはをしたり、個人と会ったりすることはあるものの、それぞれの生活がある。なかなか全員で集まる機会は見つからない。

「どんなバンドだった?」

「全員髪の毛真っ赤で、ちょっとふざけた歌詞で、どっちかっていうとパンクっぽいやんちゃな…」

「あー、雑誌で見たことあるかもなぁ」

 その頃、ケルベロスはとうにデビューしていたから、同じ雑誌にも載っていただろう。

「フリーウィルは、今でも時々聴きたくなるなぁ」

 かまいたちが在籍したインディーズレーベルだ。個性豊かでバラエティに富んだバンドが多数所属していて、当時のシーンを盛り上げていた。

「へぇ、フリーウィルなぁ」

 和馬もその名前は聞き及んでいるだろうが、ジャンルも違えば世代も違う。30近かった和馬には、随分と子どもっぽく見えただろう。

 しおんが手元のグラスを空けると、和馬はすぐにそれを下げて、新しいジンライムを作りにその場を離れる。

 すっかり習慣になった、その一連の流れ。何も言わなくても伝わる。閉店間際で、この一杯を最後にしよう、というタイミングも察してくれる。

 いつものことだけれど、毎回少し嬉しい。彼が自分をきちんと見ていてくれることが。

 カウンターの反対端で、並んでいるボトルからジンを選ぶ和馬に、バイトリーダーの敦也が声をかける。

 手にしたフライヤーを元に、何か話しているようだ。その様子を眺めながら、新しいタバコをくわえる。

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