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「彩人…あ、息子ね。彩人、19でメジャーデビュー決まったから、東京行っちゃってさぁ。寂しい!」
「メジャーなんだ。知ってるかな。何てバンド?」
「ベルノワール。ヴォーカルだよ」
裕奈は嬉しそうにスマホを操作して、ベルノワールのオフィシャルサイトを開いて見せる。
「こんな感じ。しおんちゃん好きじゃない?」
「ベルノワールだったら、確か聴いたことあるよぉ。マジでー?」
色とりどりの髪を立てて、黒を基調にした派手な衣装をまとう彼らのアーティスト写真。90年代の流れを組む、正統派のヴィジュアル系バンドの出で立ちだ。
曲はその血を受け継ぎながらも、ヘヴィネスな方向性だった印象がある。上手くはなかったけれど、名古屋にもこんなバンドがまだいたのか、と嬉しかった。
そのメンバーが裕奈の息子だというのは、ちょっと不思議な気分だ。
「へぇ。どんな感じなんだ?」
和馬は興味を持ったのか、裕奈にそう尋ねる。
「いかにもなヴィジュアル系なんだけど、段々、V系メタルって感じになってきてます」
「おう、V系メタルな。あれだろ、lynchとかJupiterとかみたいな」
和馬のメタルに対する探究心は、古典だけに留まらない。最新のシーンのチェックも怠ることはない。
「どっちかっていうとそんな感じの…lynchは近いかな」
「聴いてみたいな。えーっと、ベルノワールな?」
和馬は自分のスマホを操作して、音楽配信サービスにアクセスする。
「…これ?」
見つけ出した画面を裕奈に見せて確認する。
裕奈は頷いて、画面を操作する。
「この、新譜のHate or Fateだけ聴いてもらったらいいですよ」
「何でぇ? たくさんあるでしょ、これ」
画面にはいくつかアルバムやシングルが並んでいたので不思議に思う。
「今回のシングルでメンチェンあってさ。それで一気にレベル上がったから、これ聴いて欲しいんだ。最初にファーストとか聴かれたらがっかりされちゃう」
親と言えど、ベテランバンギャだ。楽曲の完成度に対する視線はなかなか厳しい。
メンチェンと言うのは、メンバーチェンジのことだ。これがきっかけで変貌するバンドは珍しくない。
「じゃ、これ流そう」
和馬は近くにいた敦也を呼び、店内のスピーカーから音を出せるように繋いでもらう。彼は、こういう作業は苦手だ。




