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92話 異次元と実験

「不完全を完全に…?」


「そうよ、この力さえ完全すれば私達が崇める神、セーラー様がこの世に完全復活出来るのよ!!」


……えっ?それ言っちゃうの?


セーラーが不完全なままだって事は私の中ではあくまで仮定の話だったんだけど……


「その為に私達は何度も何度も大事な実験を重ねて来たのに……!勝手にこっちの世界に入って来て勝手に実験体を潰すなんて…アンタ達、礼儀がなっていないんじゃないの?」


「いや、その研究は周りの一般市民にとって迷惑行為ですから……」


「……それに!アンタ達のような『その辺にいそうなガキ』に大事な研究を邪魔されたのが1番腹立つのよ!!」


「そう言う貴方もごく普通の人に見えるよ」


「私もそう思う。最初貴方を見た時は一般人かと思って一瞬攻撃を躊躇してしまいましたよ……影が薄いって言うか地味って言うか……」


この猿人の女性、私服や髪型があまりパッとしないし、やたら影が薄い気がするだよね……


(この人の格好なら、私が元いた世界である『日本』に居ても誰からも違和感を抱かれる事無く過ごせるんじゃない?)


「ぐぎぎぎぎ……!」


セーラーの右腕を自称する女性は歯を剥き出しにして分かりやすい程に怒り、今にも私達に向かって飛び掛かってきそうだった。




「セーラー様が復活したらアンタ達なんか…!!」


「とりあえず話は後で聞くから……貴方は大人しく降伏して下さい」


私は構えた剣の先を女性に向けながら静かに呼び掛けた。



「ふーん……そう言うのは周りの状況を理解してから言ったら?」



シュン!



「!?」


突然周りを囲うように現れた大量の気配に驚き、私は急いで周りを見回した。



「囲まれてる……!」



ローブを深く被り、見た事が無い形をした拳銃を構えた謎の不審者達が私の周りをぐるりと取り囲んでいた。


地上にいるカゲリちゃんに目をやると、カゲリちゃんも私同様に拳銃を構えたローブの不審者に囲まれていた。


(この人達もカゲリちゃんの姿が見えてるの…!?)


「武器を下ろせ。貴様ら、少しでもおかしな真似をしたら撃つからな」


「むぅ……」


ローブの不審者に警告された私は、仕方無く手に持っていた武器を指示通り下げた。




「レカ様、実験の準備が整いました」


ローブの不審者の1人が女性に近付いてそっと耳打ちをし、レカと呼ばれた女性は不敵な笑みを浮かべた。


「うふふ……アンタ達、こんな子供騙しな時間稼ぎに付き合ってくれて本当にありがとう〜!お陰で今進めている研究の準備がバッチリ整ったみたい!」


「………」


「悔しくて何も言えない感じかしら〜?まあ、とりあえずアンタ達はこの研究が完成する様を静かに眺めているといいわ!まあ、この研究が完成したらアンタ達は即処分なんだけどね〜〜!!

悔しい?ねえ悔しい?折角私達を止めに来たのに何も出来ずに終わるなんて可哀想〜!!アッハハハハハ!!」


レカは私の顔にギリギリまで顔を近付けると、下品で不快な笑い声を上げた。



その瞬間




ボ ォ ン ! !




遠くで凄まじい爆発音と共に物凄い量の煙が噴き上がった。




「………えっ?あの方角って……」


「実験が……行われていた場所……ですね……」


「まさか……失敗したのか……?」


レカとローブの不審者達は呆然としながら爆発がした方向を眺めている。


「な…何で爆発したの……?」



「知ってたよ。貴方が私達の周りに仲間を呼び寄せているのも、遠くで謎の魔法陣を発動させようとしていたのもね」



「はぁ!?何でそれを……!?」


「こう言う事」


「はぁ…?」


私は真下に指を差し、それを見たレカは怪訝そうな顔で下を向いた。




ゴ ォ ン ! !




「へぶふぅ!?」


レカの顔にやたら大きくて頑丈な拳が直撃し、後方へ回転しながら吹っ飛んでいった。



そして先程レカが居た場所……つまり私の目の前には握り拳を高く掲げたゴーくんの姿が。


「ゴーくん、ありがとう!」


私がお礼を述べると、ゴーくんはその場で器用に宙返りをして見せた。


「ゴーレムが浮いてる!?」


「貴様っ…!?レカ様 に゛っ゛!?!?」


バ キ ィ !! ベ キ ッ !!


「け゛ふ゛ぅ゛!?」


「く゛う゛ぅ゛!?」


更に真下からミニゴーレム5体が飛び出し、私達の周りを囲むローブ姿の不審者を次々と薙ぎ倒していく。


不意打ちを食らったローブの不審者達は次々と落下し、地上で伸びていたローブの不審者達の上に積み重なった。どうやらカゲリちゃんの周りを囲っていた不審者も片付けてくれたようだ。



本当は大人数に囲まれても余裕で突破出来たんだけど……奴らが此処で何をしていたのか気になったからね。


こっそりとゴーくん達を現場に向かわせている間、私達はこの人の茶番に付き合ってあげてたんだよ。


(ゴーくん達もこの異次元に持って来れて本当に良かったよ……さてと)



『拘束!!』


シュルルルル!!


何処からともなく現れた丈夫そうな縄がレカとローブの不審者達を一瞬で縛り上げ、あっという間に形勢が逆転した。

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