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91話 怪物退治

「ロイワ、待たせたな……む?カゲリも居るのか?」


カゲリちゃんが到着してから数十分後、ようやくヘル先生が私達の待つ修理屋『ラピスラズリ』へと到着した。


「あれ?ヘル先生、カゲリちゃんの事分かるんですか?」


「ああ、姿は見える。何を話しているのかは分からないがな。それよりも……

ロイワ、今から職場に残っている学生2人を護衛しつつ真っ直ぐ学校に戻るように。この区域に避難指示が出たので職場体験は中止だ。

どうやらこの地域に潜んでいた怪物が十分に育ってしまったらしく、夜に現実に現れる可能性が高いそうでな……」


「怪物……ケタケタの事ですね」


まさかヘル先生までオカルト話を信じているとは……しかも上から避難勧告まで出るなんて……


「そうだ。本来なら私も怪物退治に参加したかったのだが…この怪物には普通の攻撃も魔法も当たらないらしくてな……怪物退治は全て陰陽師の方々が受け持つそうだ」


「そうなんですか…」


まさか高レベル持ちのヘル先生ですら参加出来ないなんて……


「でも、私も怪物退治に参加したいです!」


せめて技術方面で役に立てたらいいんだけど……


「ロイワ……気持ちは分かる、だが、私の独断で判断する訳には……それ以前に陰陽師のボウエンさんが許可しなければどうする事も……」




『我を呼んだか?』




「なっ…!?」


突然、真上からしわがれつつも声量の大きい老人の声が聞こえてきた。


「その声は…ボウエンさん!?一体何処に…!」


『此処だ』


バサバサバサバサ……ポスッ


真っ白な鳩が修理屋の屋根の上から現れたかと思うと、その鳩はカゲリちゃんの頭上に見事に着地した。


「は……鳩?」


これが陰陽師のボウエンさん……?それともこれはボウエンさんの式神なの?


『それっ!!』


バサバサバサッ!


ボン!!


カゲリちゃんの頭から飛び立った鳩が宙で一回転すると、鳩の身体が一瞬で膨らみ、内側から陰陽師のような衣装を着た初老の猿人の男性が現れた。


『我の名はボウエン。陰陽師であり、ロイヤルタウンに駐在する陰陽師達の元締めである。今は我が使役する式神を通じて話をしておる』


す、凄い……この人めちゃくちゃ陰陽師っぽい……!


『して、ロイワよ。其方は先程、怪物退治をしたいと申したか?』


「はい!被害を少しでも無くす為に私が出来る事をやりたいのですが……」


『うむ、いい心掛けだ。其方の事はカゲリから聞いている。どうやらカゲリの姿だけでなく、声まではっきりと聞こえているそうだな。おまけに武術の才もあると……』


「はっ、はい…!」


ボウエンさんは私を暫しの間まじまじと見つめ、何やら満足気な表情でコクコクと頷くと私に向かって再び口を開いた。


『よし、ロイワも現場に来るといい。出来る事を口頭で伝えよう』


「あっ…!ありがとうございます!!」


やった!何故許可を出してくれたのかはよく分からないけど、私にも怪物退治に参加出来る権利はあるみたいだ!


後はヘル先生の許可も有れば…!


「……分かりました。ロイワを現場に向かわせます」


『うむ、アンタは話が早くて助かる。道案内はカゲリに任せるでな、再び現場で会おう。では、我はこれにて失礼する』


ポン!


パタパタパタパタ……


ボウエンさんは再び鳩の姿に変わり、空の彼方へと羽ばたいていった。





ボウエンさんとか言う物凄く偉そうな人から無事に許可を貰えて良かったけど、まさかヘル先生まで許可を出してくれるとは……


『保護者から子どもを預かる立場である以上、私の独断で許可は出せない!!』とか言われるかと思ってたから……いや〜良かった良かった……


「ヘル先生、許可を下さりありがとうございます!!」


「お礼ならボウエンさんに言うといい。それに、例え怪物相手だろうが10レベルであるロイワならきっと大丈夫だ」


そう言ってヘル先生は私に顔を向け……





ヘル先生の目が濁ってるーーー!?!?





「カ、カゲリちゃん…?」


真相を確かめるべくカゲリちゃんのいる方を向いてみると、カゲリちゃんは無表情のまま私に向かってサムズアップをしていた。


間違い無い、ヘル先生がすんなり許可を出してくれたのはカゲリちゃんの精神術のお陰だ……


でも、こんな事して後で怒られないのかな…?


「……あっ、そうだ!ヘル先生、先に今日の職場体験についての報告書を渡しときますね!」


本来の目的である職業体験の仕事を思い出した私は、ポケットから一枚のカードを取り出すとヘル先生にそっと手渡した。


「ああ、ありがとう。今日は色々と頼んでしまってすまないな……」


「いえいえ!私は大丈夫ですよ!」


監視中のミニゴーレム2体も既に回収済みだし、これで心置きなく現場に向かえるね!


「では、行ってきます!」


「うむ。ロイワ、頑張ってこい」


私はポケットから取り出したスポーツバイクに乗ると、カゲリちゃんと共に『ケタケタ』が潜む現場に向かって飛び立った。





「先生!お待たせしました!!」


ロイワが去った後、修理屋『ラピスラズリ』からシダとライムがヘル先生の元へと駆け寄って来た。


「シダとライムか。出る準備は整ったのか?」


「はい!準備万端です!!」


シダはヘル先生に元気よく返事をするが……


「……先生、先程ロイワが提出していたもの……報告書……とは?」


ライムさんは表情を強張らせながらヘル先生に恐る恐る問いかけた。


「ん?もしかして先程のロイワとのやりとりを見ていたのか?先程ロイワから貰った報告書は君達の事について纏められたものだ。君達の護衛と審査を高レベル持ちであるロイワに任せていたのでな。

これについてはライムも先生から聞いていたのではないか?」


「え……?それは何かの冗談では……」


「……ライム、何故この状況で冗談を言う必要があるんだ?」


「………」


ヘル先生の説明を聞いていたライムの顔から段々と表情が消えていき、顔面が白を通り越して真っ青になっていく。


「……さて、我々も帰還するとしよう。シダ、ライム、行くぞ」


「はい!!」


「………な」


「ん?ライム、どうした?」


「そ…そんな………の……聞いて……な………」


バターン!!


「うわぁあああ!?ライムさんが倒れた!?!?」


「どうしたライム!しっかりしろ!!」








「ねえ、カゲリちゃん。これから退治する怪物ってどんな生物なのか話を聞きたいんだけど…いいかな?」


コンクリートで区切られた住宅街の上をスポーツバイクで飛行中、私ね隣で水平飛行しているカゲリちゃんに怪物について尋ねてみた。


「いいよ。本来、噂から生まれた怪物…怪異は普段、現実よりも薄い次元に生息しているんだよ。


怪異は身体が曖昧で現実では長く生きられない。噂1つで身体が変化してしまう程に弱くて、現実に暮らす魔族に攻撃所か碌に干渉すら出来なかった。


でも、最近怪異の動きが活発になって…ついに現実世界に、魔族達に影響を与え始めた。


で、私と陰陽師が暴れ回る怪異とその周辺を念入りに調べた結果、草人が何らかの方法で怪異を強化して現実に送り込んでいる事が分かったんだよ。多分、今回の事件も草人が関わってるんだと思う」


「草人…!」


まさかこんなオカルト方面でも迷惑を掛けていたなんて…!


それと、カゲリちゃんも前から草人関連の事件に関わっていたんだね……


「で、怪異は『怪異の存在をはっきり捉える事が出来る人』しか攻撃出来ないんだよ。今ロイワは怪異に近い私をしっかり理解出来ているから、この事件の深い所まで関われる筈だよ」


「うん、分かった」


この怪物事件、想像以上にとんでもない事になっているようだ。何とかしなくては……!






「現場に到着したよ」


「うーん…本当にこの場所に怪物がいるの?周りには何もないように見えるんだけど……」


到着した場所は住宅街の中央にある大きな十字路だったが、特に変わった所は見られなかった。



ボウエンさんの元へと歩いて行く途中、周囲には陰陽師っぽい衣装を身に纏った魔族達がぶつぶつと何かを呟きながらうろついているのが見えた。


「報告だ。ラピスラズリに勤務していたヨマについて詳しく調べた所、ヨマと言う人物はこの世に存在しない事が判明した」


「この地域で発生した謎の点検業者の犯人も草人の可能性がある。謎の音声については目下調査中との事だが、この音声も草人の仕業である可能性が高いな」


「今展開している結界に不備は無いか?」


どうやら皆んなは今回起こった事件の調査に陰陽師関連の話をしているようだ。



「ボウエンさん、無事に到着したよ」


やがて目的の人物である本物のボウエンさんの元に辿り着いた。先程私達の前に現れたボウエンさんと姿形がそっくりだった。


「うむ、よくぞ来てくれた。これよりカゲリとロイワの2人は別次元に赴き、そこに潜む怪異『ケタケタ』を全て討伐してほしい。

我々はケタケタが表に出ぬよう抑えておく。頼んだぞ」


怪物退治に参加出来なくても、せめて補助で参加を…とは思ってたけど、まさか怪物退治そのものに参加させて貰えるとは…!


「分かりました!……で、ケタケタの居る場所にはどうやって行くんですか?」


「別次元に行く方法についてはカゲリがよく知っておる。カゲリの後をついて行くといい」


「分かりました」


「じゃあ行くよ。ロイワ、私の後に付いて来てね」


タタタタタ……


「分かった!」


私は小走りで走り始めたカゲリちゃんの後を追いかけた。




カゲリちゃんの後を追いかける事約5分……


(何故だろう…カゲリちゃんはあまり速く走ってない筈なのに、少しでも目を逸らしたらあっという間に見失ってしまう気がする……)


やがて狭い通路に入った所でカゲリちゃんの足は止まった。


「この速さに付いて来れるなんて……ロイワも中々やるね」


速さ以外の何かで見失いそうだったんだけど?一体どうなってるん……


「あれ……此処何処……?」


私は不思議に思い辺りを見回す。


此処は確かに住宅街の中の筈なのに……何かが違う。


環境音が消え、周りから人の気配が一切しない。見慣れた筈の景色に違和感がある……何もかもが奇妙だ。


「ロイワ、此処が今回の目的地である異次元だよ。現実とそっくりだけど全然違うの。ほら、あそこに見えるのが討伐対象のケタケタだよ」


「えっ、もう近くに…?」


私はなるべく物陰から出過ぎないよう細心の注意を払いつつ、カゲリちゃんが指差した道をそっと見ると、そこには変な音を出す謎の人影が……


見た目は人型なのだが、頭には大きな口のみで身体中に複数の手が生えた、明らかにこの世の生き物には見えない歪で奇妙な怪物が3体、広い道路を歩き回っている。



ケタケタ…ケタケタ……ケタケタケタケタ……



その謎の物体から今まで聞いた事のないような奇妙な音が耳に入ってきた。

恐ろしく無機質、かつ笑い声のようにも聞こえる正体不明の音に私は思わず顔を顰めてしまった。



「あれがケタケタ…!まさか3体も居るなんて……」


「ううん、1つ向こうの道路にはケタケタの群れがいるみたいだよ」


「そんなに居るの!?」


「うん。で、今からケタケタと戦闘になる訳だけど、ロイワは攻撃と補助どっちが得意?私はどちらかと言うと補助が得意だけど……」


「私はどちらかと言うと攻撃かな?じゃあ私は攻撃メインで行くから、カゲリちゃんは補助をお願い!!」


私は魔導帽を操作して自分とカゲリちゃんに補助魔法を掛けつつ、カゲリちゃんにサポートをお願いした。


「分かった」


返事をしたカゲリちゃんは何処からともなく大量のお札を取り出すと、3体のケタケタに向かってお札を複数飛ばした。


紙で出来ている筈のお札は真っ直ぐ飛び、見事にケタケタの元まで届いた。



ペタペタッ!



身体中にお札が張り付いたケタケタは身動きが取れなくなったようで、先程から微動だにしない。


「カゲリちゃんありがとう!後は私が!」


私はケタケタがいる広い道に飛び出すと、脳内に呪文を並べつつ右手側に意識を集中させた。


すると、何も無い所から真っ赤な剣がスッと現れ、柄が私の右手に収まった。


「てぇい!!」



ズバッ!!ズバズバッ!!



私は赤い剣で3体のケタケタに素早く連続して切り掛かった。


ザアア……


身体を切られたケタケタ達は身体が砂のようにバラバラになって消えてしまった。





私は魔法の研究を進めたお陰で『自分の意思で何も無い場所から自由に剣を出せるように』なったんだよ!

(今は魔道帽で補助しているから更に沢山の剣を生み出す事が出来るよ!)



「ていっ!」


私はスポーツバイクに立ち乗りすると、目の前の家々を軽く飛び越えて一つ先の道路の上へ。



ケタケタケタケタ……ケタケタ……



そこにはカゲリちゃんの言う通り、物凄い数のケタケタの姿があった。こんなのが表に出て来たら大変な事に……!此処で全て仕留めないと!



「ターゲット補足!目標、ケタケタの群れ!!」


私の言ったキーワードに反応した魔道帽が、自動でケタケタの一体一体に十字のターゲットマークを設置した。


「補助よし!攻撃用意!」


更に魔導帽の補助により私の周りに無数の赤い剣が現れ、剣先が全てケタケタの群れを向いた。




「行けーーーっ!!!」




ズドドドドドドド!!!!



私の号令と共に、宙に浮いていた剣が物凄い速さでケタケタの群れへと飛び込んでいき、ケタケタの身体を一直線に貫いた。



ザァァアアア………



剣の餌食となったケタケタの身体が一瞬揺れたかと思うと、その場で砂のように溶け出して次々と消えていく。


「よし!いい感じ!」


何とか私の攻撃が通じて良かった〜!


「ロイワ凄いね」


「ありがとう!カゲリちゃん、まだ他に敵は……」


「後ろ!」


「へ?後ろ?」


カゲリちゃんの声を聞き、急いで背後を振り返ると……


見知らぬ女性が物凄い速さで私に向かって飛んで来るのが見えた。


「何あれ!?」


私は咄嗟に武器を構えたまま彼女に向き直るが……


シュッ!


「消えた!?」


先程前方に居た筈の女性が一瞬にして姿を消した。一体何処に……



ゴッ!!



突然、私の背中に衝撃が走った。背後に目をやると、先程私に向かって飛んで来ていた筈の謎の女性が私の背中に足を乗せているのが見えた。どうやら私は彼女に蹴られてしまったようだ。


「なっ…!?」


魔導帽のカウンターが発動しない!?どうなってるの!?


「貴方は誰!?」


私は急いで彼女から距離を取り、いつでも攻撃出来るよう武器を構えた。


(攻撃が軽くて済んだけど……もしこれがヤバい攻撃だったら今頃私は……!)




「いっ……たーー!?!?蹴った私の方がめちゃくちゃ痛い!?アンタの身体どうなってるのよ!?!?」


だが、突然現れた彼女は右足を抱えたまま宙に浮き苦しみ悶えている……


「痛いも何も、貴方が油断してショボい蹴りを入れた方が悪いんでしょ!?」


「はぁ!?ショボいって……!?はぁ!?!?」


この人私に攻撃したかと思えば急にキレ出したよ……何だか変な人だなぁ……


「ロイワ……多分、さっきの攻撃があの人の全力……」


「へ?カゲリちゃん何か言った?」


「何でもない」


「そこ!私にこんなダメージ与えといて余裕ぶっこいてぺちゃくちゃ話してんじゃないわよ!!」


「それは急に攻撃してきた貴方が……まあいいや。そもそも貴方誰なの?」


魔法の気配が一切無かった筈なのに、急に私の真後ろ現れたようだけど……一体どうやって?


「私?私はセーラー様の命を忠実にこなす、草人よりも遥かに上の存在……つまり、セーラー様の右腕的存在よ!」


……やはりこの人も草人の仲間のようだ。しかもセーラーに近い人物みたいだけど……


(セーラーは私達の妨害で完全復活を果たせなかった……ってミュラーが言ってたけど……何故奴らはまだこんなに活発に活動を続けているんだろう……)



「こんなに怪物を作って…!貴方は一体何が目的なの!?」


「ふん、どうせ子供には分からないでしょうし、聞きたいんなら教えてあげる。私達はね……不完全を完全にする力が欲しいのよ」


不完全を完全に……?まさか、この人……!


草人が崇めている神『セーラー』をこの世に完全復活させるのが目的……!?

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